落ちぶれていく君に

昔の男に会った。

細々とした年始や誕生日の挨拶から、コロナが明けたら久々に酒が飲みたいねという言葉がきっかけだった。

酒を飲むという話だったのに、指定されたのは昼下がりのオープンテラス席だった。

コーヒーがゆっくり飲めるカフェとして、評判だという。

彼はさすがに少し老けたが、相変わらず実年齢よりは若かった。

事業に失敗した彼は、ここ数年貯金を食い潰して生きているという。

「なら、男娼をやってみればいいんじゃない」

私の発言は、色々な方面から批判が来るに違いない。曰く、貧困から躰を売ることを勧めるなんて。曰く、躰を売る商売はそんな手軽に始められるものではない、馬鹿にしている。云々。指摘は最もだ。


「前に言ってたじゃない、興味があると。今の仕事で食っていけなくなったらやってみようかなって」


ずっとずっと、恋い焦がれていた男だった。気高く誇り高く、触れたら切り傷ができてしまいそうな男だった。

好きで仕方がなくて、どうにか「彼の女」になれたけれど、そんな女は他にも捨てるほどいて、苦しくて止めた。


「私、知り合いに女性向けデートクラブのオーナーいるから、紹介しようか」


彼をお金で買える日が来たらどんなにいいかと思っていた。

お金で言うことを聞かせられるなら、そうしたいと思っていた。


キスして、抱きしめて、好きって言って。嘘でいいから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る