第3話【蓮莵視点と律視点、そして第一印象】
『律君、何読んでんのー?』
『……………………………“櫻子さんの足下には死体が埋まっている”……』
『あ、律君も読んでんの!? 面白いよな、アレ!』
『……………………………お前、も……?』
『うん、俺櫻子さん好きだなー』
『……………………………変態……? けどあの知識の多さには、憧れる…………』
『変態言うな!』
律君は木の下で本を読んでいた。相変わらずフードに隠れたその顔は見えない。
彼と言葉を交わすようになって一ヶ月が経った。初めは無視されていたけど、今では度々言葉を返してくれるようになった。
今は春。君と出会った木の下で僕らは今、こうして語り合っている──。
────────────────────────────────────────────
本当に馬鹿なんじゃないのか、って思う。
毎日飽きもせず俺に話しかけて。
無視されても次の日はにこやかに笑いながら話しかけてくる。
今だってそうだ。皆知らないフリで通り過ぎていくのに、お前だけが気付いて話しかけた。
……本当に何で俺に話しかけるのか、
からかっているのか、そうでないのか。
友達なのか、そうでないのか。
仲が良いのか、そうでないのか。
最近俺自身、解らなくなってきた。
お前は本当に──……
なんで俺なんかに構うんだ…?
そこだけが不思議で、不可解で、謎だった。
訊いても笑ってはぐらかされるだけだろうが──。
いつしか俺はアイツから声をかけられるのが嫌じゃなくなっていた。
自分でも不思議だ。他人と関わるのはウンザリしていた筈なのに……。
…………アイツと居るのは苦痛じゃない。
おかしな話だ。親にさえ疎まれて愛情が不足したまま、生きてきた俺が、他人と関わるのがこんなにも楽しいと思う日が、来るなんて……。
────────────────────────────────────────────
嬉しい。やっと最近律君が返事をくれるようになった。
あんまり笑ってはくれないけれど、たまに笑ってくれるとその日一日凄く頑張れる。
不思議だなぁ…僕に
律君とはそうでもなかった。彼が言うならそういう事をしても良いとさえ思う。
……まぁ言わないとは思うけど…彼の性格上。
彼が最近返事をくれるようになったから、テストの点数も右肩上がりだ。
石化は今のところ見えない部分にしか及んでない。服で隠れるため、他の人からはあまりバレていなかった。知っているのは律君、ただ一人だ。
初めて会った日、律君は異様な程に僕に怯えた。
過去に何があったのか、僕は知らない。けれど想像はついた。あの反応の仕方は他人の反応を恐れる怯え方だ。
それに──…
以前ちらりと見えただけだが、リストカットの痕が手首に薄ら赤い線を幾筋も描いていた。
律君に気付いたことに気付かれたかもしれない。
彼はきっと『関係ない』と言うだろう。僕もその通りだと思う。けど…
やめてほしかった。僕の好きな人の身体に、傷がつくのは──…
────────────────────────────────────────────
『ねぇ、律君。僕の第一印象ってどんなだった?』
『…………………………は?』
『何馬鹿なこと言い出すんだコイツは』的な視線を向けられて、背筋をゾクッと何かが走り抜ける。しかしそれは恐怖からくる冷や汗のようなものでは無かった事は、確かだった。
『だーかーらーぁー…僕の第一印象はどんなだった?』
『…………………………奇人、変人、変態、変わり者……』
『おおぅ……って僕、変態じゃないよ!?』
『…………………………知らんがな……あと、は………やっぱ言わない』
『えー!? そこまで言っといて止めないでよー!?』
『…………………………言、わ、な、い……』
律君が言いかけて何故か止めてしまう。
催促すると区切りながら拒否られた。
──くそぅ…至極残念だ
『…………………………俺、は…?』
『へ?』
『…………………………俺の、印象は?』
…ビックリした。律君がそんな事を訊くとは思っていなかったので、完全なる不意打ちだった。
とうの律君はしぱしぱと瞬きをして、きょとんとした風情で僕を見ている。そう、まるで──僕がなぜ困惑しているのか解らないとでも言うように……
『…………………………おかしな事、言った、か……?』
『あぁいや、違うよ? ただ意外だったんだ律君が訊いてくるとは思わなかったんだよ』
『…………………………すまん……』
『いや、いやいやいやいや! 謝る必要無いよ? 僕の勝手な思い込みかつ、勝手な先入観だっただけだから!』
『…………………………そう、か……?』
『うん、そうだから! だから謝んないで?』
『…………………………分かった……』
律君に謝られたのではたまったものではない。彼が悪いのではなく、先入観で見ていた僕が悪いのだから、謝るなら僕が謝るのが妥当というものだろう。
『…………………………じゃあ、訊いていい、か…?』
『うん、構わないよ! 僕さ、初めて律君を見た時、雨に濡れた天使か何かのように見えたんだよ。律君からしたら迷惑極まりないだろうけど』
『…………………………俺よりも、綺麗な人はたくさん居るから、な……』
『律君は謙遜しすぎだよ?』
『…………………………うっさい、余計なお世話だバァカ』
楽しかった、二人で笑えてたあの時が。
本当に、律君と笑えていれば、それで良かったのに──……
僕の友情だと思っていた気持ちが、いつから、律君を想うモノになったのだろうか。
ただ、
ただあの時は、
二人で、
笑えていれば、
良かったのに。
植物男子と鉱石男子の日常 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。植物男子と鉱石男子の日常の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます