第一章 植物病と鉱石病

第2話【出逢いは唐突に始まりまして】

五月も終わって六月に入った。そろそろジメジメとした空気に包まれた、梅雨に入る頃だろう。そんな時だ、彼に…【植物病】を患う彼に出逢ったのは。


彼はぽつぽつと降りしきる雨の中、傘も差さずにぼーっとした表情で、突っ立っていた。

その時彼が何を考え、思っていたのかは定かじゃない。けれど、とても綺麗で目を惹いていたことは確かだろう。


流れ落ちる水滴に濡れた白髪が、淡い紅色に染まった唇が、薄い桜色の頬が、極端に白い肌が、全て神秘的だった。



「……………………………………何、見てんだよ……」

「!? え、あ……ご、ごめん…」

「……………………………………なんか用……?」

「え、あ、いや……その、綺麗だな、って…」

「……………………………………ふーん……変なヤツ」


グサッとその言葉は俺の胸を突き刺した。

文句を言おうとして顔をあげて、彼の顔を見た瞬間、固まった。


彼は…怯えていた。あまり顔に出ないタイプなのか、表情には表れていないが眼が……瞳が怯えて揺れていた。


「……何か、過去にあったの…?」

「………………………ッ……うるさい! 何も無い……ッ!」

「嘘だ、何も無いなら…そこまで

「………ッ……怯えて、なん、か………」


思わず訊いていた。俺の言葉に彼はビクッと身体を震わせて、否定する。

明らかに反応だった。

例えば……イジメとか、無視とか、虐待、迫害…それと同等のものが。


──……彼なら、分かってくれるかも…知れないな…


「…………………

「……は?」

「鉱石病って……知ってる?」

「…………………………知らねェ……」

「そっか……、って言ったら…分かる?」

「…………………………それがどうした。……お前がまさかだとでも?」

「そうだよ、って言ったら……どうする?」

「……………………………別に。どうもしない。ただ……」

「ッ! …………そっか」


彼の出した返事に思わず息が詰まってしまう。あまりにも……意外だったから。今までの反応と違ったから。


「君、名前は?」

「…………………………言う必要無い筈だけど。……先に名乗ったら、言わない事も無い」

「あ、そっか。俺の自己紹介忘れてたね? 俺は、蓮莵れと、石槻蓮莵だよ」

「……………………………酸漿ほおずきりつ……」

「律君か、よろしく」

「……………………………よろしくする気、無いけどな……」









──それが俺と、彼……酸漿律君との出逢いだった。


その時の俺はまだ、知らなかった。いや……知らなくて良かった。

彼が……律君の身体を蝕む、俺よりも怖い、病気の事を…………。

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