第56話 すれ違う想い 2
彼女たちの背中が小さくなるまで見つめていた来夏は、ゆっくりと砂の国へと戻って来る。
魔法少女たちと、戦わずに済んだというのに、その表情は重く沈んでいた。
この砂の国は、乾いた砂で作った城のように脆い。
とても脆いのだ。
アリードが勇敢に戦ったとしても、大した兵器を持ち合わせている訳でも無い。
メルトロウが思慮深く行動したとしても、魔法には無力だ。
来夏が守らなければ、いとも簡単に崩されてしまうであろう。
しかし、『魔法』の力を行使すればするほど、この世界の他の人々との間に大きな溝を作ってしまうのではないか、と、考えずにはいられなかった。
頑なに来夏の手を拒んだベル・マ・クドゥールでさえ、ノルノルやイルイルに、容易くその手を預けていたのだ。この世界の人同士ならば、もっと分かり合えるのではないのかと……。
(アリードなら、彼女たちにどんな言葉を伝えられるのだろう……)
来夏は大きく頭を振った。
自分に出来ない事を人に頼るのは良くない事だ。彼女たちの目的が分からない間は、アリードに合わせられる筈もない。魔法を使う敵が彼らにどれほどの被害をもたらすかは、十分にわかっている心算(つもり)だった。
「その様子だと、あまり良い結果じゃなかったみたいね」
朋美がドラゴンの背中に腰を掛けたまま、静かに来夏の側にやって来た。
「うん……。でも、彼女たちのことは私が何とかしなきゃ」
「やっぱ捕まえちゃえばよかったんじゃない?」
「それは……」
そうなのだろうか? 彼女たちと話し合うには、そうするしか他に手段はないのだろうか?
返す言葉に自信が持てない来夏に、朋美の質問がさらに追い打ちをかけた。
「今回は見つけられたけど、知らぬ間に入って来て、この国の街や人を攻撃していたら?」
朋美は少し意地悪な質問に、悪戯っぽい笑みを浮かべていたが、急に表情を取り繕うと、真剣な目つきになった。
「それにね、彼女たちの魔法。あれは、限りある力を使っている物よ。あの様に使い続ければ、いずれ無くなってしまうわ……そうなった時、いえ、そうなる前に……うーん、どうなるのかしら?」
彼女たちの魔法の異質性には気が付いていた。来夏たちとは違い予め制限を設けられた力であるように感じていたが、それが無くなると、どうなるのか?
進んでいる道が通れなくなっても、回り道をすればやがて目的地には辿り着く。来夏にとってはそれだけの事だった。
「違う使い方を?……」
それさえも制限されているのではないかと。彼女たちのあまりにも真直ぐな想いが、回り道を探す事を拒んでいるような気がしてならなかった。
誰もが固い信念を持ったままぶつかれば、どうなってしまうのだろう。
その答えを知りたくはなかった。
アリードも、彼も同じだ。引き返せぬ道を歩いている。
だからこそ、この世界の広さを知り、より多くの選択肢を持ってもらわなければ。
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