午後二時の朝ごはん

森音藍斗

午後二時の朝ごはん

 朝起きる。

 そんなことすらできないのかと、自分を呪う。

 朝。

 午後二時の朝ごはん。

 昨夜コンビニで買った菓子パンは昨夜のうちに食べてしまった。

 朝ごはんにするつもりで買ったのに。

 その場で食べる気など無かったのに。

 昨夜の自分を殺したい。手を伸ばしてみたが、奴は疾うの昔に死んでいた。

 仕方ない。行き場を失くした殺意を心臓の奥に燻らせたまま、食べるものを探す。

 冷蔵庫を開ける。米と、野菜と、卵。すぐに口に入れられるようなものは無かった。

 疲れた。ベッドに戻る。

 朝。

 西向きの窓から光が差す。

 刺す。

 容赦なく僕の心を抉る。

 カーテンを閉じても隙間から漏れる橙色の光は、もうすぐ夏が来ることを示唆している。

 夏は好きだ。

 夏休みの直前が好きだ。

 何でもできるような気がするから。

 夏の終わりが嫌いだ。

 今年もまた、結局何もできなかったと毛布にくるまって震えるしかないから。

 ——否。

 何もできなかったんじゃない。

 何もしなかったんだ。

 怖い。

 今年もまた、何もできないんじゃないかと思うと。

 何もしないまま、ベッドに寝ころんだまま、毛布に包まったまま、夏を無為に過ごすことを思うと。

 何もしないんだと思うと。

 僕は。

 何もしない。

 何がしたいのか分からない。

 やりたいことはたくさんある。

 旅に出たい。語学を学びたい。物語を書いてみたい。新しい資格に挑戦したい。

 君に。

 会いたい。

 会いたい。

 ああ、何だか、夏じゃなくてもできそうなことばかりだなあ、と僕は独りで苦笑する。

 それでもやらないのは。

 ベッドの上から、毛布の中から、動けないのは。

 僕のせい、僕のせいだ。

 会いたい、君に会いたい。

 ——そう、こればかりはどうしようもない。

 旅なんか出なくていい、新しい言語など要らない、物語は書いても書かなくても構わない、資格など必要になったら取ればいい、いつでも、今でも、夏が終わってからでも、でも、君は、君は。

 幾ら僕が今跳ね起きて、シャワーを浴びて服を着替えて、鍵を掴んで家を出たって、君に会う、こればかりはできることではない。どうしようもない。

 君は、此処にはいない。

 君に、会いたいと言うことすらできないのは。

 できないのは。

 枕元で充電された携帯電話を手繰り寄せる。

 これは、しないことではない。できないことだ。

 できないのは。

 君からの着信が来ていた。

 ——会いたいよ。


 君に——



 会いたいなどと言える僕ですか。

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午後二時の朝ごはん 森音藍斗 @shiori2B

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