12.十六小片風の設計図『少女は諦めない、全てを救う事を』

「……っく!! ダメだ。完全に押されちゃってる」

「解除は……出来ないか!!」

イースフォウとスカイラインは、機械の柱をくまなく調べていた。

防ぐことができたと思われたサリーヌのボタンを押す動作だったが、運悪く衝撃で押されてしまったようであった。

「……ごめんなさい私がもっと早く止めていれば」

イズミコはうつむきながら言う。だが、二人はその言葉に対し首を横に振る。

「あれはどうしようもなかったわ。むしろ、あなたの攻撃が気を引いてくれたおかげで、私たちの最後の攻撃がサリーヌに当たったのよ」

「ねえ、イズミコ。あなたはこの機械の事解る?」

イースフォウの問いかけに、イズミコは首を横に振る。

「ごめんなさい。……私、今いろいろと忘れているから」

「どういうこと?」

「……その人が持っている旧文明の遺産の影響らしいんだけど」

その言葉にイースフォウは彼女の状況を理解する。

「『忘れられた少女』……でも、おかしいよ。あなたの名前を何度も言ってるのに、思い出せないの?」

「イズミコって……本名じゃないらしいの」

「そんな感じはしなかったけどなぁ」

名前を教えてもらった時のことを思い出しながら、イースフォウは首をかしげる。

「どちらにせよ、解らないのならどうしようもないわ。問題はこれが押されて何が起きているかよ」

「いきなりぶっ放されたわけでは無さそうだけど……」

と、そんな事を話していると、施設が揺れた。

それも、断続的に、まるで何かの攻撃を受けているように……。

「何となくだけど、外部から攻撃を受けているみたいだわ」

「ということはここに戦略兵器規模の旧文明の遺産があるって事が、外部にも知れ渡ったって事?」

スカイラインは頭を抱える。

「まずいわね。こんな市内にそんなものが出てきたら、間違いなく破壊命令が下されるわ。……早くここを脱出しないと、巻き添えを食らうわ」

「って、悠長に構えている場合じゃないじゃない!! 早くクロとヒールを取り外して、脱出しよう!!」

だが、スカイラインは実にばつの悪そうな表情をする。

「ごめん、イース」

「……なに?」

「実は…………足が折れてるみたいなのよ」

「……へ?」

イースフォウは、視線をスカイラインの足元まで下げる。

真っ赤に痛々しくはれ上がった、スカイラインの足首が目に留まった。

「……仙気もほとんど残って無い。走ることもできない。……脱出、なかなか難しいかもしれない」

「っく!!」

イースフォウは急いで柱のクロとヒールに飛びついた。

「ごちゃごちゃ話してたって、意味は無い!! まずは脱出する準備をするよ!!」

だが、二つの石は思うように外れない。

「クロ、ヒール!! どうやったら外れるの!?」

「「――………――」」

だが、二つの石は答えない。

「早く教えて、二人とも!!」

焦るイースフォウ。その様子を、二つの石はじっくりと確認しているようだった。

「――おい、フォウ。何を焦っているんだ?――」

「早くしないと、脱出できないからよ!!」

「――でもね、フォウ。別にあなた一人なら、慌てなくても余裕で脱出できるのよ――」

ヒールの言葉に、イースは目を見開く。

「……何を言ってるの!? そんなこと……」

「――あのなぁ、フォウ。その二人はな、お前から俺たちを奪った張本人だぜ? なんで、そんな奴らとつるんで脱出しようとしているんだ?――」

信じられないという表情をしながら、イースフォウは首を横に振る。

「……そんなこと、覚えていないわ!!」

「――悪いな、俺たちは覚えているんだ。こいつらが余計なことをしなければこの機械も動かなかったし、俺たちもお前と一緒に過ごせていた。俺は、お前とのこの三年間、割と好きだったんだぜ?――」

「――そうねぇ。フォウったら世話が焼けたけどね。ワイズほどじゃないにせよ、心地よい三年間だったわ――」

「――だからよ。そんな奴らなんも気にせず、見捨てて逃げれば良いんじゃねえか?――」

「――今回ばかりは、私も同意見だわフォウ――」

「そんな……二人とも」

クロは以前から、こういった手厳しい言葉も多かった。だから不思議ではない。だがヒールに関しては、こんな血も涙もないことを言う事は無かった。

イースフォウはただただショックで、でも反論できない。

たしかに、イースフォウはこの二つを取り返しに来た。そのために軍を裏切ったに等しい事もしようとしたし、多くの人を巻き込むのも辞さなかった。それだけこの二つは、イースフォウにとって大切な家族だった。

言ってることは正しいし、一認知前の自分なら同意見だったはずだ。

だが、イースフォウは……。

「ふざけないで二人とも。私は、仲間を見捨てたりしない。あなたたち二人も、後ろの二人も、ちゃんとみんなでここを出る!!」

その言葉に……二つの石は実に穏やかな声で答えた。

「――まったくなぁ。その自分の大切なものだけは、我儘に全部取ろうとする考え方――」

「――ほんと、サードにそっくりだわ――7」

その瞬間、クロから小さな電気のような刺激が、イースフォウの中に流れた。

「っキャ!!」

思わず、後ろに数数歩下がるイースフォウ。

「な、何するのよ、クロ!!」

その言葉に、クロはさも楽しそうな声で言う。

「――なに、ご主人様が助けたい物の手伝いをしただけさ――」

「――フォウ、天井より瓦礫が落ちてくるわよ。急いで障壁を展開しなさい!!――」

ヒールのその忠告と同時に、ドカンと天井が破裂した。

そのまま、大量の瓦礫が三人に襲いかかる。

とっさにイースフォウは伝機を上に構える。

「The dark world is spinning.The sky Nebula is singing.The night sky will never change.Please ringing forever. サウンド・オブ・ホイール!!」

イースフォウは、自分の知りうる最大の障壁術で瓦礫を受け止めた。いつかの模擬選でスカイラインの逆流を止めた術だが、果たして瓦礫全てを受け止められるか、彼女自身にも自信は無かった。

だがそんな事よりも……。

「クロ、ヒール!!」

大切な家族に、手が届かない。

「――なに、あれだフォウ。俺たちは別にこの程度の衝撃じゃ壊れない――」

「で、でも!!」

「――ごめんねフォウ。もう手遅れみたい――」

そんなヒールの言葉とともに、今度は足場の崩壊が始まる。

轟音の中、柱の重さもあってか、クロとヒールはどんどん地面に沈んでいく。

「余裕があったら、あとで掘り返してくれな!!」

そんな言葉とともに二つの石は、柱ごとその姿を沈下させた。





破壊音が次々と響く中、エリスとハノンは身動きが取れないでいた。

「こまったじゃん。私とエリスじゃあこの先は進めそうにないじゃん」

その先は長い廊下のような空間であった。だがそこは別の場所で森野が確認した場所と同じように、壁中に四風が埋め込まれた通路であった。

ここを抜けようとすれば、間違いなく集中砲火を浴びるだろう。もしここを進むとしたら、進みながら四風を破壊できる攻撃タイプの使い手が居ればよい。だがエリスもハノンも、援護や防御の得意な♭使いである。無事突破できる可能性は低い。

エリスは探知術でこの先の様子を確認する。

「どうやらこの先が外への出口のようなのですが……」

「出口が近いんなら通信つながるし、誰か助けを呼べるんじゃん?」

「それが、この旧文明の遺産自体が戦闘態勢になっているようで、妨害電波やらなにやらを振りまいているみたいなんです。救難信号くらいは送れると思いますが、こちらの詳しい意図を伝えるとなると……、少し難しいかもしれません」

「………せめて、森野が居れば」

「呼んだ?」

不意に、背後から声を掛けられた。

エリスとハノンは振り向く。そこには少々ボロボロになってはいる森野が、二人に笑いかけていた。

「も、森野!!」

「森野先輩!!」

「エリスちゃんハノンちゃんも無事だったみたいね」

感極まって抱き付くハノンの頭をなでながら、森野はエリスに問いかける。

「で、こんなところでどうしたの? 早く脱出しないとダメじゃない」

「……それが……」

エリスは先に続く廊下を指さす。

「……ふむ」

森野は、ひょいとその先を覗き込んだ。

「……なるほど。ここから先もこうなっているのか」

「……ここから先『も』ですか?」

森野は自分のボロボロの体を見せる。

「いやね、奥の方から突っ走って来たんだけど、もうずっとこんな道が続いててねぇ。だいぶ内部からの破壊は出来たと思うんだけど、充伝器も全部使い果たしちゃった」

「私たちは比較的出口の近くで、旧文明の遺産の変形に巻き込まれたみたいで……ここまでこんな道には遭遇しなかったのです」

「だとしたら覚悟した方がいいよ? もう息つく間もない砲撃が繰り出されるからねぇ」

そんな軽口を叩く。何とも緊張感がない。

だが、エリスとハノンは気付いた。

森野の視線は、既にその先に向かっていた。

「エリス、ハノン。ここはチームワークで切り抜けるしかないわ」

「チームワークでいけるのでしょうか?」

「やるしかないわ。二人とも、仙気は残っている?」

「あたしはほとんど残ってるじゃん」

「私も、大きな戦闘には使っていませんので……」

「……悪いけど、私はもう残り少ないからね」

度重なる戦闘の中で、森野は既にそのほとんどの仙気を使っていた。

「私は必要最低限しか攻撃できない。でも、ダメージソースは私しかいない。……どうすればいいか、解る?」

コクリと、二人は頷く。

「森野死守ってことじゃん?」

「先輩が最短で動ける状況を作ります」

二人の命を、森野に託すという意味であった。

「エリスは逐一周囲の状況を把握して、私を誘導して。ハノンは致命傷になりそうな攻撃をブロック。多少の軽ダメージは無視していくわ。で、私は出来る限り旧文明の遺産を破壊して、攻撃の数を減らすわ」

「それで……いけるのでしょうか?」

「考えたって無駄じゃん。……森野以上に上手い作戦なんて、私達考えられないじゃん?」

ハノンのそんな言葉に、エリスは深くため息をついた。

「……今、周囲の状況を調べたら、徐々に崩壊が始まっています。……時間も無いようです」

「だいぶ内部から破壊したからねぇ」

「外の連中も、上手い具合に攻撃出来てるんじゃん?」

エリスは伝機を操作して、計算をはじき出す。

「出口まで五〇メートル程度。旧文明の自立砲台が45門。私たちで駆け抜けられる可能性は……まあ、悪くないです」

「悪くないって……どのくらい?」

森野がエリスに尋ねる。エリスは両手をひらひらとしながら、ぼそっと呟くように言った。

その答えに、ハノンと森野はがっくりとうなだれる。

「……ま、確かに悪くは無いか」

「ある意味、悪くは無いんじゃん?」

それでも、可能性があるというのなら、三人は駆け抜けなければならない。

三人は飛び出せるように構えた。

「GOサインはエリス、あなたに任せたわ」

「エリス、私はいつでもOKじゃん」

エリスは、コクリと二人の言葉に頷くと、大きく息を吸った。

「………行きましょう!!」

「「おうっ!!」」

三人は通路へと飛び出していった。

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