兄と妹のファーストコンタクト(202007)

 娘・桜が生まれたのは2020年7月。

 つまり現在進行形でそうであるように、コロナ禍の真っ只中であり、その余波で入院中は面会禁止だった。


 二人目ということもあり、帝王切開の傷の痛みがマシになってきてからは、比較的のんべんだらりと入院生活を送っていたけれど、心配なのは家に残してきた長男・明のことだった。


 今までも夫や実家に預けて出掛けたことはあるし、そもそも保育園に通っていたので平日日中は離れていたけど、夜になって息子が寝る前には帰宅していたし、丸一日会わないことは一度もなかった。


 様子を伺う限り、息子は元気に過ごしているようだった。

 テレビ電話で娘を写し、オンライン面会を果たした際には、


「赤ちゃんねんね!」

「赤ちゃん起きてーーー!!!」


 と絶叫していた。

 起こさんといて。



 しかし。ただでさえ『赤ちゃん返り』があるという2人目の出産である。

 それに加え、人生初めて母親に1週間もずっと会えず、おまけに別の生命体を抱えて帰ってくるのだ。今まで自分オンリーの天下だった息子からすると、そりゃあ面白くないだろう。


 前にネットか何かで、産後始めて上の子に会う時には、

『まずは上の子に会いたかったとの気持ちを伝えてから、その後で下の子をさらっと紹介する』

 のがよい、そうした方が上の子が下の子をすんなり受け入れられる、とあった。


 なので私は、そのとおりにしよう、まずは息子を思い切り可愛がり倒してから娘を紹介しよう……その日は息子がべったりだとしても、授乳以外は夫ができるし、と決意していた。




 そして迎えた退院の日。

 保育園から帰還する息子をドキドキしながら待っていると、勢いよくリビングのドアが開いた。



 来たーーー!

 久々の息子だーーーやったーーー!!!



 と両手を広げて待ち構えていると。


 息子は「ママ!」と嬉しそうに一声上げると、部屋の中に駆け込み、






 私をスルーして全力で娘のところに駆け寄って行った。






 あっれェ〜〜〜〜〜!?!?!?



 風のように通り過ぎたね!?!?!?



 いや、妹を喜んでくれるのはめっちゃ嬉しいけど!!!!!




 それにしても感動の再会、一瞬過ぎない!?!?!?!?!?





 リアルな息子の音声は、


「ママ! おかえ……

 赤ちゃん! 赤ちゃんだ! 赤ちゃーーーーーん!!!!!」


 である。

 ママの存在と娘の存在が1対9くらいである。






 寂しくなんてないもん……!






 そんなこんなで想像以上に妹をウェルカムで迎えてくれた息子だった。

 もはや拍子抜けとか寂しさとか通り越して面白かったので、慌ててこの時の動画を撮っているのだが、


「赤ちゃーん! 赤ちゃーん! 赤ちゃんだ!!!」


 と息子は大興奮で娘を撫で回し、可愛がり倒していた。






 後々、赤ちゃん返りもぐずりもあったけど、なんだかんだで基本は妹を可愛がってくれているので、母としては一安心である。


 今は娘が泣くと、


「ママ(パパ)! 桜泣いてる! 早く来てー!」


 と叫んで、


「もう少しでパパ来るよー!」


 とガラガラを鳴らしてくれたり、めちくちゃいいお兄ちゃんしている。



 あと、よく娘の匂いを嗅ぎ、


「いい匂いするねぇ」


 と言いながら、こっそりちゅーしている。


 将来、妹に彼氏ができたら、真っ先に立ち塞がるのは兄かもしれない。

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