第10話:経験の編纂。

「はい、これ。プレゼント!」


 シャルに紙袋を笑顔で手渡された。


「ん、なに。」


 中を覗くとどうやら洋服らしい。いつの間に。


「二着しか買わなかったから、プレゼント。お洒落するのも大事だよ?」

「……そうだね。」


 男はシンプルでも許されるが、女性は芋だ何だと同性から非難されるらしい。機能美で何が悪いのか。これからの私は理解できるのだろうか。




 幾らか買い物をし昼食を一緒に食べた後、ロイスト雑貨店へ戻ってきた。シャルは[oslec'li(閉店)]の看板を持って中に入る。昼食は魚介のパスタだったが、美味しかった。


「そうだ、ここの商品見ていいかな。」

「碌な物ないと思う……あー、剣とかあるけど、冒険者になるなら一本くらい持っといたほうが良いんじゃない?」

「護身用か。」

「近くだとゴブリンが出る森もあるし、街の中だって全く安全って訳じゃないからね。」


 特に女一人だと更に危ない。戦闘能力も身に付けないといけない。


「軽いのだとこれとこれかなぁ。」


 こちらはレイピアだろうか、鞘が細い。戦うには少し心許ない。そもそもレイピアは鎧の隙間を縫う武器、つまり対人戦用だ。

 もう一つは、何だろうか、木製だ。


「こっち貸して。」


 棒を手に取る。表面には綺麗な彫刻が施されていている。留め具を外して引き抜くと刀身が顔を覗く。仕込み杖のような物だろうか、武器と言うより工芸品ではないだろうか。 

 ただ、表以外は確りとした剣であり、能力には問題ないように思う。包丁くらいしかお目に掛からないので間違っているかも知れない。

 刀身がぴしりと鞘に収まる所を見るに、製作者もド素人ではない。でも木製って摩擦はどうなんだ?、飛んでいっては元も子もない。


「重くていいなら両手剣もあるよ、初心者向けじゃないんだろうけど。」


 柄を合わせて1.5mはありそうな両手剣が壁に掛かっている。たとえ重くなくともモーメントに振り回されそうだ。


「あそこの篭は廉価品の粗悪品。一応値段は付けてるけど、今度捨てるって。」


 一本持ちあげてみたが、妙に重い。鞘から出して構えてみるが、どことなく重心が合わず、持っていて怖い。


「……うん、駄目だこれは。私にだって判る。」

「そもそも鞘から抜けないのとかあったからね。」


 逆に何処から仕入れたんだろうか。そして何故仕入れたのか。シャル兄への謎は深まるばかり。



□□□


 あのあと木工の剣を紙で試し切りした。羽織るように両断される紙を見て、私は買う決意をした。金貨一枚の出費だが「いのちだいじに」の精神だ。

 今は折角武器を買ったのだからと冒険者ギルドに来ている。


「安全な仕事をお願いします。力仕事でもいいので。」

「ええと、最近は土木系に冒険者に頼むほどの需要は無いですね。雑用系は他のギルドが主体でやってますし、……討伐は駄目ですよね?」

「できれば。」

「そうなると、薬草採集くらいしかないです。」


 薬草を集める仕事か、壁外は危険だから冒険者に依頼があるのかな。


「高品質なら1本[1,500thスィア]ですけど、大抵は[500th]で買い取ります。あと、20本以上なら一割分金額を上乗せします。25本なら一般価格で、[500th*25本*110%]の[13,750th]ですね。」


 買い物の結果、金貨[100,000th]>銀貨[1,000th]>銅貨[10th]だと判ったので、つまり薬草1本⇒半銀貨1枚らしい。半銀貨とは銀貨を等分した半月の硬貨だ。2つ連結すれば1枚の硬貨として利用できる。各硬貨が[50,000th][500th][5th]となる訳だ。

 銀貨10枚[10,000th]/5日の宿に泊まっているので、目標数は5日で薬草20本か。楽に達成できそうだが自然物が永遠にある訳もない、代替の仕事も考えておこう。


「それで薬草採集に行くにあたって何か手続きはありますか。」

「大丈夫ですよ、常設依頼なので分量で買い取ります。レートは変わることもありますけど。

 あ、初めてなら採集百科を見ますか?、色々書いてますよ。」

「採集百科?」

「これです。」


 カウンター下から取り出される分厚い書物。図書館にあるなこういう百科事典。重そうだ。


「ええと、薬草は#0001なので、はい、このページです。」



 ……外見や大きさ、生息分布、最適な採取方法などが書かれている。成程、根元から1cmほどの瘤を綺麗に断つのが最適か。


「これって、借りられるんですか?」

「ギルド外への持ち出しは禁止ですけど、転写は問題ないですよ。書きます?」

「いえ、これくらいの情報量なら覚えられます。転写はまた今度で。」


 暇な時にでも読もう。有用そうだ。


「……この本の編纂へんさん者は誰なんでしょうか。他の出版物も見てみたいのですが。」

「これは冒険者ギルドが発行している物になるので、編纂者その人は判らないです。」


 道理で著者が書いてない訳だ。


「他にもありますか、こういった辞典。」

「ありますよ。獣魔関連とか、食料に特化したのとか。」


 食事は大事だ、うん。長期戦なら現地調達も視野に入るだろう。


「改定版が出ると皆さん殺到するらしいですから、空いてる時にでも読んで下さい。」

「情報は大事ですからね。」

「面白い情報は随時募集中です!」


 情報に飢えている私で良ければ。

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