第4話:王都の喧噪。
シュガルムさんの招きに従って帳から前方を覗くと、広大な石壁とそのフロントに広がる街並みが望める。
「大きいですね、どれぐらいでしょうか。」
田園から見る都会のように高層な、
「カファイドの壁は400年前から作られ始めて、100年の歳月を経て完成したそうだ。アイドからの遷都の時に造ったんだと。」
「そうなんですか、首都に防壁は必須だからでしょうか。過剰な防衛とも思えますが。」
「建設当初は強大な魔獣に襲われることを考えたらしい。今はもう役不足だか、保全のために国が定期的に改修してるんだと。」
強大な魔獣、ね。たしかにバス程度なら余裕で弾き返しそうな壁だ。怖い世界である。
「――うお。」
「おー、これが
ちょっと、乗らないで。四つん這いにシャルさんが乗る。さして重くないけども。
「私初めて来たんだけど、フールも初めて?」
「初めてですよ。あの、重いんですけど。」
「だめかな?」
その柔い胸を押し付けないで。
……今なら触れてもいいか。堪能しよう。
「まぁいいです、余裕で耐えれますから。」
「じゃあもっと乗っちゃう。」
「ちょっと!?」
「……なに赤くなってんの。」
四つん這いの私に抱き着いてきた。こっぱずかしいけど抗えない。
荷物袋と同性に挟まれながらも馬車は着実に王都へゆく。大きな河を渡るともう壁外地区だ。
「壁の外も結構賑わってますね。」
仮組みながら小売店が
「壁内で売るには審査が入るからな。身元不明な品は外で捌いてしまう。」
「……掘り出し物を探すのも楽しそうです。独自ルートの品は壁内で売れないのでしょう?」
「『死体なき殺人は犯人なし。』だ。」
「……あーそういうのアリなんですか。」
バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。
「そもそも審査官が全ての貨物を確認しきれる訳がない、方便の法律てことだ。」
壁門に近付くと検問に馬車か並んでいる。列の先を覗くとどうやら荷物や身元を軽く確認している。
「私、身元を保証できるものなんて持ってないんですけど壁内入れるんですか?、検問してるんですけど。」
「俺たちの手伝いと言えば入れるだろうが、どこかのギルドで登録証は貰っといた方が良いぞ。契約もしやすいからな。」
あとで作ろうと思う。死にかねない。
行儀の良い列が進んで私たちの番が回ってくる。
「通行証を提示してくれ。そんで荷も見るぞ。」
「はいはい、ご自由にしてくれ。」
帳の外から検問官の声が漏れる。
「一度降りてくれるかな?、荷物を確認するから。」
上部の留め具で巻いた帳を保持すると私たちに声を掛ける。検問官の脇から馬車を下りると早速荷物を調べ始めた。
邪魔にならないよう、端で調査を眺めていたが、梱包された物については時折内容物をシュガルムさんに確認する程度で開封はしていない。X線検査もできないのにこれでは御座なりと言われても仕方ない。
とはいえ所要時間はたったの1分だ。迅速な通行を優先するのだろう。
「確認終わりです、どうぞ。」
検問官は馬車を下りて
「数分とは言え面倒ですね。」
「人攫いとかの防止になってるって聞いたし無駄ではないんだろうけど、ね。」
「盗品とかの見分けは無理だろうね。」
「無理だろうね。」
□□□
石の壁に穿たれた長いトンネルを抜けると喧噪の街であった。
「おー、賑わってますねぇ。出店は無いですけど色んな店があるなぁ。」
大通りはテーブルが溢れ出ても広く、しかし人と馬車が往来し埋め尽くす。
「北東門から南西門に抜ける大通りが王都だと一番賑わってるな。
こっちを『太陽通り
直交するもう一つを『月通り
中央の城をぐるりと囲む環状線は『金環通り
太陽通り、月通り、金環通り。買い物は三大街で!ってわけか。覚えておこう。
「ちなみに私たちのお店は北区の環状5号にあるからよろしく!」
「……カンジョウゴゴウ、てなに?」
「えーと……、叔父さん、王都の地図どこに仕舞った?」
「自分のカバンに入れてただろ。」
「んー……あ、これか。ほらちょっとみて。」
傍にあった荷物の上に広げられた紙を見ると同心円が連続で書かれている。地図にしては歪みが無く、直交座標の関数でも見てるみたいだ。さながら金環通りは単位円だ。
「……これがカファイド?、やけに綺麗に区分けされてるけど。」
「道を街より先に造ったらしいからね。」
にしても綺麗な円だなぁ。
中央に王城を構え、周囲に金環通りを走らせる。さらに波紋のように環状線を加え、最後に直交する2線で全体を4等分する、と。
「でね、金環通りを0号として、5号がこれになる訳。んで私たちのお店はここ。」
「一度知ってしまえば判りやすいですね。」
「因みに正式な住所を言うと『北区環状5号312番』だって。」
住所が細かく規定されているのか。綺麗な王都ゆえって感じだけども、凄いな。
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