第2話:新緑の草原へ。
ふと瞼を開けると、暗がりに木目がみえた。
――ああそうか、俺は寝ていたんだ。毛布を押しのけてベッドから立ち上がり、カーテンの隙間から零れる陽へ歩く。そして濃緑のカーテンに手を掛ける。
「おぉ……。」
開け放たれた窓から望む新緑は雄大で、遠い青空から風が吹き込む。地平線は遠く、対の轍がはるか遠くに消えていく。暖かく輝く太陽が眩しい。
「……新しい世界に、来たんだな――?」
声が異常に高いな、ヘリウムでも充満してるのか?……いや。
「TSFは頼んでない、よな。」
神の
いわゆる
……不本意ながら納得するしかない。苦労するだろうが女性を謳歌するのもいいか。納得するしかない。
「胸はあんまりないな。妹の方が余程……。」
そういえば
「しかし胸を揉んで妹を思い出すとは、俺も案外余裕なのか。
……いや、私のほうが良いか。」
「服装は死ぬ前に着てたジャージか。性差ない服で良かったというべきか。」
寝室からドアを開けて隣の部屋に行くと、机や鏡などの調度品が備わった部屋だ。水道もあるのかリビングに洗面所もある。
私はいま姿見で自身の身体を確認していた。百戦無敗には己を知らなければなるまい。
「……うん、はずかしい。あーはずかしい。」
何せ鏡に映る女性はそれはもう麗しい。まじまじ眺めても怒られる筈ないので遠慮なく観察してるが、青いドレスを着せたら映えるだろう。着たくないが。
髪は黒く、肩甲骨ほどに長い。が、所々に蒼い髪が混じる。遠めに見れば青みがかって見えるだろう。
「変な髪だけど、銀の瞳には合ってるか。」
アントアのセンスは良かったと言う事か。……いや、話したライトノベルのキャラに『黒髪に銀の瞳』がいたから、それのオマージュか。蒼の混色はオリジナルで。
でも長い髪は邪魔だ、結びたい。
部屋の箪笥などに紐でもないかと探してみたが何もない。麻縄の太いロープはあったが使い物にはならない。使えるとしたらこの腕のベルトか。
一度外してみる。
真鍮か、金具を外してみると内側に字が彫ってあった。『
「プレゼント、なのか?、ふふっ。」
失笑してしまったが、素直に嬉しい。アントアは何とも思ってないだろうが、物を贈るというのは自分の思いの丈が強く伝わる表現だ。無下にはできないな。
腕に付け直し、優しくなでる。
突然ベルトが発光した。いや、装飾の一部が光を放った。
次いで空中にホログラムを投影しはじめる。青白いホログラムには幾つかの項目が表示されている。
「……驚いた。魔法みたいだ。いや魔法か。」
ライトノベルに頻出する高度なVRのようで、世界の違いを実感する。
「――なるほど、操作はタブレット形式か。」
Homeには複数のアイコンがあるが、端の折れたA4用紙の如き『説明書』を開き、一通り読んだ。堅苦しく読みづらい文体だが雑食の読書家にとって苦ではない。
よるとスキルがあるそうで、スキルのアイコンを起動したら詳細を説明された。
□□□
【神眼】//unique
望遠。顕微。記録。製図。観察。
【加護:創造神】
造形。合成。交換。反応。//理論補助
【
収納。//最大解放
□□□
3種類しかないとは思えないほど能力の幅が広い。特に[神眼]。スキルとして渡すのだからこの世界の住人もスキルを持っているのだろうが、此処まで有能な人はいないのだろう。
詳細な情報を閲覧すると自由度の高さを更に確認できる。何処までできるのか、限界は実験して確かめるのが確実だ。
身体への言及もされていた。見た目通りの良い筋肉の付いた普通の女性の身体だそうだ。しかし魔法関連は見た目ととあまり関係性がないようで、高性能、らしい。魔法が楽しみだ。
「――さて。」
ベルトを
「あぁ、この身体は柔らかいなぁ、動きも幾分か軽いし、良い。」
部屋の隅にある階段を、
丈のあるブーツに四苦八苦しながらも
「……誰もいない。」
小屋を周ってみたが人気は無い。1階の大部分は馬小屋になっており、そこに馬がいない時点で可能性は薄かった。
果たして広大な草原にポツリと放たれた私に何ができるのか。
「轍を歩けばどちらかに着くと思うけど。」
小屋の正面に看板がある。
『王都
初見の文字だが意味は理解できる。所謂、自動翻訳か。実感すると気持ち悪い。
「王都一択。……いや、距離があると困るな。」
悩んでもどうにもならないが悩ましい。なぜ距離を書かなかったのか。
ガタガタと音がする。
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