第3話 国王様と謁見したよ
暖かく気持ちの良い風が王宮の庭の花や木々を揺らす。
「むうぅ」
そんな素晴らしい光景の隅で俺はふてくされていた。
手元の草をひたすらブチブチッと引っこ抜く。
こんな雑草達に八つ当たりをするのは何とも情けないものだが、他に何もすることがないのだからそれはしょうがない。
既に俺の隣には腰の高さくらいの雑草のかたまりがこんもりとつみ上がっていた。
俺がなぜこんなことになっているのかを説明するのには、3日ほど前に戻らなければいけない。
◇◆◇
「そこにお座り下さい。」
ステータス確認をした次の朝、俺達はお姫様に呼び出されていた。
「ふわぁ」
煌びやかな応接室にあるソファはとても柔らかく、弾力がある良いものだった。飛び跳ねたくなる衝動に駆られたが、そこはグッと我慢する。
幼児化のせいで、行動まで子供っぽくなっているみたいだ。
お姫様の隣には50代後半くらいの強面で存在感出しまくりのおっさんが座っていた。
誰かは知らないけど、威厳あるなぁ。
どっかの政治家にいそうな顔だ。
その近くには騎士らしき女の人もいる。
豊富な胸がせいか、彼女は男子達の注目を浴びていた。
おっさんが口を開く。
「私はこのライスト王国の国王だ。この度は勇者の貴方達を身勝手に召喚してしまったことに謝罪する。」
そう言って国王は頭を下げた。
ほんと洒落にならないよ…
突然なんだもんな、俺の誕生日きっちりにこっちにとばされるなんて、思いもしなかったし。
亡くなった両親の代わりに育ててくれた、ばあちゃんにまだちゃんとお礼言えてないのにさ。
それに今の俺の姿を見たら――――――…
いや、喜びそうだな、ばあちゃんは。
髪の毛をぐしゃぐしゃになるまで撫で回しそうだ。
「うぇ!?」
ばあちゃんのことを思い巡らせていると、急に後ろからグイッ!っと襟首を掴まれ、持ち上げられた。
「なぜ、子供がこんなところにいる? どうやって侵入したんだ!!」
女騎士さんに泥棒と間違えられたみたいだ。ちゃんと用意されたきれいな服を着ているというのに。失礼な。
「いちおう、ゆうしゃなんでしゅけど…」
目を潤ませ困った顔で見上げる。
彼女はうっと声をつまらせたが、離してはくれない。
「そ、そんなわけないだろう!! 文献には成人した者が召喚されると…」
「エリサ、勇者様を離しなさい!!」
「ですがっ! て、え?姫様!?」
お姫様のひと声で彼女はやっと離してくれた。
成人した者、ということはこの国の成人年齢が日本より低いのかもしれない。15才くらいかなぁ?
「…すまない、貴方が勇者様だったとはつゆ知らず…」
俺の視線の高さに合わせて申し訳なさそうにする彼女はちょっとギャップがあって可愛かった。
「わざとじゃないのなりゃそれでいいでしゅよ。」
そうして頭をポンッポンッと撫でる。
エリサは気持ちよさそうに顔を緩ませた。
顔がほんのり赤く染まっているのはどうしてだろうか。
「ごめんなさい。エリサは少し早とちりなところがあって…」
普段、彼女はお姫様付きの騎士をしているらしく、お姫様からも謝罪された。
痺れをきらした神崎が一歩前に歩み出た。
「そんな役にたたない子供に構うよりも、俺達勇者にこれからの説明するのが先じゃないのか?」
確かに正論だ。
正論だけど、一言多いよ神崎くん!
「あ、ああ、そうだな。本題に入ろう。」
王様の説明を聞くためにソファに座り直す。
エリサはまだ撫でて貰いたそうにしていたが、自分の状況に気づき、慌てて自分の持ち場へと戻っていった。
恥ずかしかったのだろう、まだほっぺの赤みはまだひいていないみたいだ。
「勇者様方には騎士団達の訓練をうけて、強くなってもらいたいと思っている。
一人づつ、騎士をつけて指導を行わせるつもりだ。」
そう言って、国王は手を2回ほど叩く。
すると応接室のドアが開き、三十代前半くらいのダンディーなおっさんが礼儀正しく入ってきた。
「俺はライスト王国の騎士団長をしているカリエという者だ。勇者様方の訓練を手伝わさせてもらう。よろしく頼む。」
渋い声を響かせたカリエは、神崎へと手を差し伸べた。
「聖剣の勇者よ。君にこの国の命運がかかっていると言えよう。期待しているぞ。」
神崎はフフンと鼻をならし、強く握手をする。
「もちろんだよ。他の奴とは違う聖剣の勇者なんだから。」
自分に酔っている神崎に男子達は冷たい目を向けていた。
彼の取り巻きの女の子達はキャーッと騒いでいたのだが。
◇◆◇
応接室を出て、騎士の訓練場に訪れた俺達は正装を纏った騎士達に出迎えられた。
真っ白で綺麗な正装姿に、クラスの生徒もみんな目をキラキラさせている。
もちろん俺も例外じゃない。
なんだよあれ!格好良すぎだろ!!
あーゆーのってほんと憧れるわ~!
思わず前のめりになり、見入ってしまった。
満円の笑みの俺を見て、北条さんは後ろでまた、もだえていたらしい。
今にも彼女の目はハートになって飛び出しそうだ。
北条さんのショタコン疑惑が俺の中で浮上したが、そんなことはないと考えるのをやめた。
「これから、訓練の指導者として騎士を1名づつつけたいと思う。それぞれのステータスにあった者を選び抜いているので、安心して欲しい。聖剣の勇者に関しては騎士団長の俺が直接指導させてもらおう。」
そして、一列に並んだ生徒達の元に担当の騎士達が一人、また一人と歩み出る。
実はこの時を楽しみにしていた。
だって、指導してもらえるんでしょ?
確かに今はステータスが低いけど、もしかしたら強くなれるかもしれないじゃん!!
そんな甘いことを考えていたんだ。
少しづつ自分の番が近くなるごとに心臓の鼓動が高鳴る。
そして…
やっと自分の時がきた。
「おや、おかしいな。
どうして小僧がここにいるんだ?
先程返しておくように命じておいたんだが…」
カリエは頭をかく。
え、どういうこと?
俺、皆と同じ勇者だよね?
「小僧は――――
俺が勇者から外した…
よって、騎士がつくことはない。」
え、はい?
うそでしょ?
「うえええええぇぇぇぇええ!?」
ステータスも低く、攻撃スキルも持っていない俺は勇者ではないと判断されたみたいだ。
皆に注目されたまま、俺は王宮への返えされるのだった。
◇◆◇
とまあ、そんなわけで皆が魔法やら剣の訓練やらしている間、俺は絶賛放置中なのである。
魔法とか、楽しみにしてたのに…
ていうか俺だけ仲間外れってひどくない?
神崎が言っていたとおり、役立たずになってしまった。
これで勇者と同じ扱いのままなんだもんな…
とんだ穀潰しじゃないか。
あの時のことをぐるぐると考えている間に、雑草の山はさらにひとまわり大きくなっていた。
「ん?」
何か閃きそうになり、じーっとそれを見る。
ピコンッ!
すると鑑定が発動したらしく、目の前にウインドウが展開された。
『ヒメヒシバ草(ただの草)×152』
『魔力草×2』
『トウダモ草×1』
「ほえぇぇぇ」
スキル!、スキルが使えたっ!!
初めての不思議な力に興奮を覚える。
忘れていたよ。俺にも使えるスキルがあったこと!
俺はうきうきとした気持ちで鑑定スキルのレベルアップを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます