第2話 チートではありませんでした

「次の勇者様ですね。この大きな水晶に触ればステータスが表示されます。それを記録いたしますので、ご協力お願いします。」


そう言って記録係の人が次々とステータスを記録していく。

俺はコソコソと一番後ろの列に並んでいた。


気にしてないよ。うん。

北条さんに影薄いって言われたことを引きずっている訳じゃあないから!


明らかに引きずっているのだが、気にしない、気にしないと自分に言いきかせる。

先頭の方で歓声が起こった。


「すっごーい!! さすが太智!」


「やっばー! 完全にチートじゃん!!」



どうやらクラスの一番の人気者、神崎太智が物凄いステータスを出したらしい。


彼はイケメンで、クラスの中心的存在だ。


ステータス見たさにみんなが集まる。

俺も見に行った。



《名前》神崎 太智 (かんざきたいち)

《年齢》16

《職業》異世界人

《レベル》1

《HP》278

《MP》109

《攻撃力》218

《防御力》90

《俊敏性》150

《スキル》 (鑑定Lv1) (言語能力Lv1:ライスト語) (魔闘技Lv1)(神聖剣Lv1)(縮地Lv1)

(神撃Lv1)



《称号》

聖剣の勇者



《装備》整った制服 清潔なシャツ 格好いい下着




おおっ確かにこれは凄い。

HPが300近いうえに全体的にステータス高いなんて反則でしょ…

俺の低いステータスとは正反対だ。

あ、でもMPは俺の方が多いね。


「聖剣の勇者…」


記録係が神崎のステータスを見て、驚愕した顔で固まっていた。


あっ、この展開はもしかして……


「か、神崎様! これは古い文献にあった魔王を倒したと云われる伝説の勇者様と同じ称号です!! 素晴らしい称号ですよ!!」


再起動した記録係は興奮したように神崎に訴えていた。


「当然の結果だよ」

女子達に囲まれた神崎はまんざらでもなさそうに、にやついている。


リアルハーレムだな…


クラスの男子達(俺を含め)にとってこの光景はきつい。みんな悔しそうな顔だ。


ぶっちゃけ北条さんがあの中にいなくて安心したけど。


「すいません、お待たせしました。次の勇者様どうぞ。」


「はーい!」


可愛らしい返事が聞こえた。

どうやら次は北条さんみたいだ。

鑑定の水晶に優しく手を触れた。



《名前》北条 千紗 (ほうじょうちさ)

《年齢》16

《職業》 異世界人

《レベル》1

《HP》200

《MP》210

《攻撃力》102

《防御力》130

《俊敏性》88

《スキル》 (鑑定Lv1) (言語能力Lv1:ライスト語) (精霊魔法Lv1)



《称号》

精霊に愛されし勇者



《装備》整った制服 清潔なシャツ 可愛い下着




精霊魔法! 北条さんらしいな。

ステータスも神崎を抜けば、クラスで一番じゃないだろうか。


「ほ、北条様も凄いですね! 精霊魔法はエルフにしか使えないとされているのに…」


記録係はまた目を見開いて驚いている。

さっきとはまた違う驚き方で。

表情筋が豊かなんですね。


「やったーーー!!!」


ぴょんぴょんと跳ぶ北条さんは天使だと思う。


「千紗」


ハーレムをつくっていた神崎が北条さんの前へと躍り出た。


ちょっ、なんでいきなり北条さんを名前で呼ぶの!?

前まで苗字で呼んでいたのに。


驚く俺には目もくれず、神崎は話を続ける。


「ここでの訓練が終わった後、俺達はダンジョンに行くらしいんだ。その時、パーティーをつくるんだって。千紗、一緒のグループにならない?」



神崎は北条さんを自分のハーレムの中に入れたいらしい。


北条さんはクラス一可愛いくて、優等生でみんなに慕われているから、神崎も目をつけたんだろう。


でもそれだけは拒否してほしい!

北条さんが決めることだから何とも言えないんけどさ。


北条さんは少し考えてから言った。


「あたしはいいや。だって神崎くんの近くにはもう一緒に組みたい女の子がいっぱいいるみたいだし」


「組むのなら…」



そしてチラッとこっちの方を向いて、




「夏目くんとがいいな!」


と微笑んだ。




「ふぇ?」

え、嘘でしょ?

この状況で話題をふられると困るんですけど!



「夏目だと…?」


神崎がこっちに貼り付いたような笑顔を向けてくる。

怖い…

目が笑ってないよ神崎くん。


そんなことを知らない北条さんは俺の手を引っ張る。そして水晶の前についた。


「夏目くんまだでしょ? 鑑定しよ!」


俺以外はもうすでに鑑定し終わっていたみたいだ。


え、こんな皆に注目された中で鑑定しなきゃいけないの?


俺の幼児化のこともあり、皆興味しんしんだ。


恥ずかしいんですけど。



「勇者様、水晶に触れてください」


記録係の人に催促されたので俺はしぶしぶ背伸びをして、水晶の下の方を触った。



《名前》夏目 幸斗 (なつめ ゆきと)

《年齢》4才 

《職業》 異世界人

《レベル》1

《HP》50

《MP》300

《攻撃力》10

《防御力》10

《俊敏性》30

《スキル》(鑑定 Lv1) (言語能力 Lv1:ライスト語)


《固有スキル》

(ふよふよ Lv1)

(なでなで Lv1)


《称号》

小さな勇者



《装備》ぶかぶかの制服 ぶかぶかのシャツ ぶかぶかの下着



本当に変なステータスだよなぁ。

そもそも幼児になってる時点で普通じゃないと思う。

称号が少なくなっているのはなぜだろう?




「固有スキル……?」

記録係が怪訝な顔をした。


「どうちたのですか?」

とりあえず聞いてみる。


「あ、固有スキルが珍しかったもので…えっと、落ち込まないで下さいね。」


そう言って、固有スキルについて説明してくれた。


固有スキルは、スキルの能力が何の能力かを知らないと全く役に立たないらしい。つまり、俺の場合は(ふよふよLv1)(なでなでLv1)の意味を知らなければ一生使うことが出来ないのだ。

これでは300あるMPも意味がない。


「うちょでしょ…」


ガクッとうなだれる。

魔法を使えると思っていたのになんか裏切られた気分だ。


「ふっ」

神崎が鼻で笑う。


みじめになるからやめてほしい。


俺は諦めずにきいてみる。


「えと、あとかりゃまほうはおぼえたりできないんでしゅか?」


努力でどうにかなるなら頑張ればいいだけだ。


「…出来ますけど、スキルと違い威力が弱いです。生活魔法と呼ばれるモノで、火を出しても火種程度にしかなりません。」


それは、つまり、



「役立たずだな」




神崎が言った。


「そ、そんなことないよ! 夏目くんだって役にたつもん!! 可愛いし!」


北条さん、それ役にたつ理由になってないよ。



さて、



4歳の幼児の体に使えるスキルは鑑定だけ。




……なんか絶望的じゃない?





▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

後書き

ちなみにこの世界の一般的な基礎ステータスはこんな感じです。


成人した人。


《レベル》1

《HP》20

《MP》10

《攻撃力》10

《防御力》10

《俊敏性》10

《スキル》人による



スキルは勇者のように強いものはめったに出ないが、ある人にはある。

職業によって変わる場合もありますが、平均はこんな感じです。平民だったらもっと低いかも。


大人になることでレベルが上がらなかったとしても多少はステータスがあがります。


夏目は勇者なので、平均よりステータスは高め。

だけど、勇者としては低い方です。


勇者の平均。


《レベル》1

《HP》110

《MP》100

《攻撃力》100

《防御力》100

《俊敏性》100

《スキル》一般よりも強いスキル。鑑定、言語能力.ライスト語

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