第14話 プランB

「こちらアベル、聞こえるか? いま6番発射管から外に出た」

アベルは思考音声通信【TTCS】での通信を試みる。

口はボンベからの空気を取り入れるため、マウスピースで塞がっているのだ。

ウェットスーツに身を包み、シースワロー2の艦首にある6本の魚雷発射口、その一番右下から海中へ這い出してきたのだ。

海上は夕刻、水温25度で海流の流れも緩やか、天候も良い。

海水の透明度も高く深度20メートルでもかなり広範囲までを見渡す事が出来る。

『こちらベス。TTCS感度良好。艦下の潜航艇No4が見えますか隊長?』

イヤホンにベスからの応答が入る。

眼下に目をやると小型潜水艇がライトで艦底を照らしてるのが確認できる。

「ああ、見える。それとイオタ軍曹が使ったと思われる吸盤フックとロープを発見。下に続いてる」

発射艦口すぐ横から一定間隔で海中作業用の吸盤フックが艦体に固定され、ロープが括り付けれ下に伸びている。

『こっちからも潜水艇のカメラで確認できる。彼女はまだ吸水口の奥にいるはずよ』

「イオタ軍曹、聞こえたら返事をするんだ。……くそッ」

アベルは表層意識で悪態をつきながらロープを辿り艦の底へ向かう。


事の始まりは2時間ほど前に遡る。

工作員の仕掛けた装置を解析した結果、やはりリアクター制御システムを改変するものだった。

通常、短時間で違法に改変しようとしても自己診断プログラムに発見され拒絶されてしまう。

そこで気付かれないよう時間を掛け少しづつ改変を行う必要があった。

発見された装置は改変用のハードウェアである、と言うのがベスの見解だ。

そこで発令所では基準内を示していたリアクターの冷却水温度を確認すべく、直接配管の温度を測定した。

結果、エラーは感知されていなにもかかわらず配管内の冷却水温度は危険域に達していたのだった。

もう少し気付くのが遅かったらシースワロー2はメルトダウンを起こし、太平洋に沈んでいたかもしれない。

即座にリアクターを停止、バッテリーにて通常航行を行いながら対策を検討した。


「先の戦闘でかなりの時間をロスした。もはや打ち上げ基地のあるジャヤプラ(※注1)までは一刻の猶予もない」

「しかし工作員の仕込んだ未知の電子トラップが他にもあるかもしれない。現状でリアクターは使用できません」

グラハムとセイゴの意見がぶつかる。

リアクターを使用し、超伝導推進でかなりの速度を出し続けなければ打ち上げ時間に間に合わない状況だ。

『3名を本艦に移乗させるというのは? 責任を持ってお運びしますが』

通信でセイラム1のアエラス艦長が移送の引継ぎを申し出る。

セイラム1は最新の攻撃型原潜であり、具体的な最高速度は機密だがシースワロー2より速いのは確かだ。

「水深ギリギリまで浮上し、魚雷発射管から海中へ出て乗り換えか。不可能では無いが…」

航海長が眉間を抑えながら具体的な乗り換え方法を提示する。

アヴァロンレーザーに狙い撃ちされる為に海上に浮上する事が出来ず、有人潜航艇も無い状況で他の潜水艦に移るにはそれしか無い。

「申し出はありがたい。しかし我々の一存で決められる事ではない。そもそもEAUCとAUCでは指揮系統が異なる」

「モスクワの参謀本部の許可が必要です。しかし短波通信を発信するのは危険ですので推奨できません」

グラハムの判断は当然であるし、その後の通信士官の意見も正論だ。

「打上げプランBという選択肢もあります。ただしリアクターが復調し本艦が万全の状態で無ければなりませんが」

「やはりリアクターを使えるようにしましょう。バッテリーではシースワロー2がジャラプラまで辿りつけませんし」

セイゴ副長の言葉にアベルが乗っかる形で意見を述べる。

「しかしどうやって?ベス少尉でもすべてのトラップを特定するには数日かかると」

「システムをリセットするのはどうでしょう?」

パイの疑問にアベルがアイデアを提案する。

「な!? そんな無茶な」

「確かにリセットすれば改変部分もオリジナルと共に完全消去されますが…いや、現状では一番現実的か?」

グラハムは否定的だがセイゴは慎重に考察を開始する。

「パイ中尉。リセットをした場合、復旧までの時間とリスクを教えて頂けますか?」

「リアクター制御系だけなら消去時間は5分以内。バックアップから再セットアップ、微調整含め1時間あれば可能だと思いますが…上手く行く保証はありませんよ」

アベルの問いにパイが戸惑いながら答える。

そもそも航海中にリアクター制御システムをリセットするなど前代未聞なのだ。

「最悪、手動でリアクターを操作する事も不可能ではありません。何が起こるか分からない現状よりは白紙に戻した方が」

「まだマシ、という訳か。うむぅ…」

セイゴの言葉にグラハムが腕組みし、両目を閉じ天井を仰ぎながらしばしの沈黙、そして──

「よし!打ち上げプランBへの変更を念頭にリセット案を採用!異論はあるか?」

グラハムの決断に誰も異論を挟まなかった。


「…アエラス艦長、ひとつお願いしたい事がある」

大半の関係者が作業の為に発令所から退出したのを見計らい、グラハムが口を開く。

『なんでしょうか、グラハム艦長』

その後のグラハムの無茶なお願いを、アエラスは快諾したという。


『リアクター制御システム消去完了。バックアップからセットアップ作業開始します』

「了解ですパイ中尉。こちらでもモニターします」

発令所のパイからの連絡を工作室に陣取ったベスが受け取る。

ベスの背後にはアベルとギメルが立ち、3人揃って作業を見守っていた。

「ベータ・ベス起動!システム再スタートの進捗状況をモニターして」

『命令を了解しました、マスター』

抑揚の乏しい電子合成音声と共に、日本人形を思わせる童女のCGが2Dディスプレイの中で自立的に動いている。

「ベス少尉。その…それは何だ?」

「ベータ・ベス?ベータちゃんに自己学習機能を追加し私専用にカスタムしたの。ヤワタ技術中尉にも協力して貰ってね」

アベルの質問にテンション高めなベスが答える。

工作員の装置解析や、もろもろの作業の疲労から少しハイになっているのだ。

「ベータの外見デザインはサエコ大尉のオリジナルのままだけど、他のアバターも準備中よ」

「そうか。あとで俺たちの分もアップデートを頼む」

「自分は何かドリンク的なものを調達してきます」

ギメルがそう言って退室していった。

ベスの疲労を気遣っての事であろうが、しかし彼らはテトラボーグでありその気になれば疲労を強制的に回復させられる。

アベルはその事に気付いていたがあえて言わない事にした。

「ギメルは…良いヤツだよな」

「そうですか? まぁ朴念仁とは言いませんけどもう少し気が利いてもいいかな…」

ベスの返答にアベルは苦笑した。

『マスター、システム再スタートしました。パイ中尉が任意箇所を再設定中』

ベータ・ベスが律儀に音声で教えてくれる。

ディスプレイの中のベータ・ベスは待機を表現しているのか蹴鞠をしている。

『…2次冷却水の取り込みが出来ないわ』

パイの困惑する声が聞こえてきた。

チェックリストでもその1箇所だけ異常有りを示している。

「艦底から吸水の途中で水路が塞がってる?昨夜の戦闘で異物が侵入したか?」

アベルは魚雷が至近距離で爆発した時の事を思い出しながらそう言った。

『2次冷却はリアクターで加熱した1次冷却水を、海水流で冷やすもの。それを取り込めないとリアクターの運転に大きな制約がかかるわ』

「冷却水の温度上昇はプログラムのせいだけじゃなかったかもしれないな」

「いずれにしても直接吸水口を確認するしかないわね、艦外に出て」

「太平洋のど真ん中だぞ? 誰が行くんだ?」

ベスの意見にアベルが眉間にしわを作りながら答える。

『搭乗員で最もダイビング…潜水作業に長けているのは、おそらくイオタ軍曹ね』

パイの言葉を聞き、アベルはセイゴ副長の許可を得てイオタ軍曹の元に向かった。


「艦橋最上部海面下10メートル、艦底部水深約24メートル。速力3、最微速」

「潜水病の懸念が残るがレーザーに撃たれないギリギリの深度だ。これ以上は浮上できない」

「海流とほぼ同期。艦の周辺では実質的に海水の流れを感じないはずです」

「潜航艇No4、艦の直下5メートルで動きを同期。吸水口の映像出します」

発令所では艦外作業に備え準備が進んでいく。

「あと20分。18時までに完全復旧できなければプランBに変更確定。あとの事はアエラス艦長に任せてある」

グラハムが腕時計を見ながら呟く。

既にセイラム1は次の作戦行動の為、シースワロー2から離れつつある。

「こちら発令所、副長のセイゴだ。魚雷発射管室、進捗どうか?」


「こちら魚雷発射菅室、アベルです。今イオタ軍曹が6番発射管内に入りました。これから艦外へ出ます」

「6番発射管、内壁閉鎖、管内注水開始」

魚雷担当士官が着々と準備を進める。

「イオタ軍曹との通信は?」

「艦外に出て、潜航艇との直線上に居る範囲でのみ可能」

アベルの疑問に隣のベスが通信機器を調整しながら端的に答える。

水中伝送に使われる波長は直進性が高いうえ、艦の外壁を通過する事も出来ない。

そのため艦の内外では有線で繋がっている潜水艇を経由しなければ通信できない。

「注水完了。外部発射口、開口!」

圧縮空気の音と共に、大きな重量が動く振動が室内に響く。

『…か。こちらイオタ軍曹、TTCSで交信中、聞こえますか?』

「こちらアベル。イオタ軍曹、聞こえている。海中はどうだ?」

『わぁ、夕焼けで海が綺麗…じゃなかった!えーと、問題ありません。これから外壁を伝って艦底に向かいます』

「…了解。続行せよ」

アベルは笑い出しそうなのをこらえ、一度通信を切った。

イオタがTTCSの扱いに慣れていないのは明白だった。

思考音声通信TTCSは表層意識のイメージを音声に変換するもので、ある程度の訓練を受けなければ扱うのは難しい。

「大尉殿用のウエットスーツと装備一式をご用意しました」

そう言いながら褐色の肌にスキンヘッドの曹長がアベルに装備一式を手渡す。

イオタ軍曹ひとりの手に負えなかった場合、アベル自身も海中に出て手伝うために用意させた物だ。

「ありがとう」

「あの…大尉殿、潜水任務の経験がおありで?」

曹長がやや心配そうに問いかける。

「まぁ、一応ね。あの時は海じゃなくて貯水タンクだったが…」

「貯水…タンク?」

苦笑しながら装備を整えるアベルを見ながら曹長が首を傾ける。

「さて…イオタ軍曹?進捗はどうか?」

『わわ…いきなりで驚いちゃった。え~と、艦低の第1吸水口を発見。これから内部…入し…』

「軍曹?イオタ軍曹、聞こえるか?」

突如イオタからの音声が途切れ、そのまま通信が切れた。

「通信圏外ね。吸水口の中は狭く細長いから奥に入られると潜水艇で中継できなくなるのよ」

ベスが答える。

「…曹長。イオタ軍曹の酸素残量はどのくらいだ?」

「あと40分ほどです」

「…5分待って応答が無ければ自分も出る。準備を頼む」

結局、5分が経過してもイオタから連絡は無かった。


アベルが第1吸水口にたどり着く。

入口は静音航行時はに閉じる1次扉が開き切っていた。

吸水口は大人2人が並び中腰で通れる程の大きさで、奥へ緩やかな上り傾斜が伸びているが分かる。

「こちらアベル。これより吸水口内に侵入する」

『了解。隊長き…つけ…』

ベスとの交信は途切れるがこれは予想していた事だ。

水路を奥に進むと、傾斜は水平になり水路が二手に分かれている。

超伝導推進用の広さそのまま横真っすぐの水路と、二次冷却水取入れ用の細い急こう配の水路だ。

アベルが急こう配の細い水路を見上げるとそこにイオタが居た。

正確にはイオタと思われる人物の両足がすぐそこにあり、一瞬驚いた。

どうやら背中のボンベの存在を失念したまま徐々に細くなっている水路を進み、引っかかって身動きが取れなくなってしまったようだ。

『イオタ軍曹、助けにきたぞ』

『あああぁぁ~ アベル大尉!申し訳ありません~』

TTCSでイオタに声を掛け、アベルは彼女の両足を掴み一気に引き抜いた。

『うべらぼるる~』

『…なんだその悲鳴は』

『す、すません大尉。あそこに見える何かの破片を取ろうとしたのですが…』

イオタの指し示した方向に視線を移すと、ちょうど水路を塞ぐ形で何かの金属片がガッチリはまっているのが見える。

恐らく魚雷の破片だろう。

『これは意外と厄介だぞ…軍曹、しばらくボンベを頼む』

『え…ちょっと大尉殿!?』

アベルは水路を奥に進むにはボンベが邪魔と判断し、戸惑うイオタに自分のボンベを強引に押し付けマウスピースも外す。

ウエットスーツのみになったアベルはヘッドライトの明かりで鈍く光る、水路を塞ぐ金属片を殴りつける。

しかしある程度予想していた事とはいえビクともしない。

『…仕方ない』

アベルは次の行動をイオタに悟られないよう、TTCSを一時オフにする。

『コード:S498374 アベル、テトラAIベルゼ コマンド 通常モード下における特殊機能利用 限定解除申請』

『コード承認、アベル大尉、申請内容の詳細をどうぞ』

テトラボーグの能力を使用すべくアベルの表層意識の問いかけに無機質な女性の音声が返答する。

『眼前の金属壁を除去、もしくは破壊の為に必要最小限の筋力ブーストを行いたい』

『命令受諾。金属壁のデータ不足。低重力下環境を加味し、さしあたって四肢の筋力の6倍増強を推奨。実行しますか?』

『実行だ』

『了解しました』

直後にアベルの両手両足の体積が1.5倍程に膨れ上がり、ウエットスーツが破れる。

カロリー消費が激増した為か、それとも血流量増えた為か、あるいはその両方か分からないが、膨れた部分から相当の発熱を感じる。

アベルは増強され剥き出しとなった両足と膝で水路の壁面にしっかり自身を固定する。

続いて右手で拳をつくり金属壁を思い切り殴りつける。

先ほどはまったく歯が立たなかった金属壁がへし折れ、見事除去に成功した。

『初期目標を達成した。通常モードへ』

『了解』

即座に膨張した四肢が元に戻ったかと思うと、急に息苦しさを感じる。

アベルは急いでイオタ軍曹の元へ戻り自分のボンベを回収、肺の空気を入れ替える。呼吸が落ち着いてきたのを確認し、TTCSを再びオンにする。

『軍曹、すぐに戻って──』

『大尉あまあえげばほへ&*#でして──』

TTCSでイオタが何かを伝えようとしているのだが、慌てていて言葉にならない。

『どうした軍曹!溺れたのか!?』

『違いますたたいいいがぶれ;7@hj──』

そういって逃げるようにアベルを置いて水路から出ていってしまった。

『…何故だ?筋力ブーストは軍曹の位置からは殆どわからなかったハズ…あ!』


「イオタ軍曹が戻りました!軽い潜水病の症状が出てるとの事で医務室へ搬送されます」

「わかった。しかし…何があったんだ?」

「分かりません。一応ベス少尉がアベル大尉から事情を聴くとの事です」

発令所では潜水艇からのライブ映像を見守っていたグラハムとセイゴが首を傾げる。

「まぁそれはそれとして。時間は15分オーバー、惜しかったな」

時計は現地時間で18時15分を示している。

「プランBに確定ですね」

「そうだな。これが吉と出れば良いが」

そう言った後、グラハムはリアクター運転開始の指示を出した。


6番魚雷発射管から艦内へ戻ったアベルに、控えていた曹長がバスタオルと衣類を差し出した。

先に戻ったイオタの姿はすでに見えず、ベスが後ろ向きに仁王立ちしている。

「イオタ軍曹は…大丈夫だったか?」

「軽い潜水病の兆候と精神的ショックで医務室です。…隊長、服ちゃんと着ましたか?」

ベスの声からは憤りの感情がひしひしと伝わってくる。

潜水艇からの映像でアベルがどんな姿で吸水口から出てきたか把握しているはずだ。

ただし、それによって大変な誤解を招いている可能性もあるが。

「ああ、もう大丈夫だ。すまないが軍曹、しばらく少尉と二人だけで話がしたい」

そういうと軍曹は退室し、魚雷発射管室にはアベルとベス二人だけとなった。

「吸水口の中でイオタ軍曹と何があったか説明していただけますか?あとこの会話、録音されてますからそのつもりで」

振り向いたベスのこめかみに青い血管が浮かんでいる。

「…はぁ」

アベルは溜息と共にテトラボーグの能力を使っ事、その際にウエットスーツの大半が破れ、その姿をイオタに見られた事を説明した。

「…では、局部を見せた…というか見られたのは不可抗力で故意では無いと?」

ベスが静かに問い返す。

説明が進むうちのに彼女の憤りもだいぶ収まったようだ。

「もちろんだ。私が彼女にセクハラをしたとでも思ったのか?」

「そんな事は…いえ、正直なところ少し疑いました。イオタ軍曹、完全に泣いてて事情を聞ける状態じゃなかったので」

「軍曹には悪かったと思ってる。しかし悲しいなベス少尉。数か月一緒に訓練を受けた我々の信頼関係はその程度だったかと思うと」

アベルは悲観したような芝居を打つ。

「いえ、そんな事は!ただ一応証拠か何かないと。映像は発令所にもライブされてたましたし」

「なるほど。一応隠しながら泳いで来たのだけれど、もしかして」

「大丈夫です!ギリギリ見えませんでしたから!」

ベスがそう言いながら、あわてて否定のジェスチャーをする。

「良かった。あと証拠と言われても…破れたウエットスーツとTTCSの会話記録しか無いぞ」

「それで十分です。お疲れ様でした、大尉!」

「ありがとう。…少尉も少し休め。打ち上げまであと24時も無いんだからな」

「そうですね…あ、ギメルの事忘れてた!」


居住区洗濯室

「一体どうやったらこんな破れ方をするんだ?」

曹長がひとり、アベルの破ったウエットスーツを確認しながら首を捻る。

それは両肩から先と腰から下全部が、縫い目の沿って綺麗に前後に裂けている。

「これじゃ前が丸見えだろうに。というか、破ろうと思っても破れるもんじゃねーぞ?」

そう呟いている所にギメルが通りかかる。

「あ、曹長。うちの隊長か女性少尉を見かけませんでしたか?」

「それなら二人ともまだ魚雷発射管室に居ると思いますが…しかしあの隊長さん、バケモノか何かですか?」

「え…また何かやらかしましたか?すみません、自分が代わりに謝罪します。何なら後で隊長の方に言って──」

そう言いながらギメルはとりあえず謝罪する。

「いや、やっぱりいいです。それより早く行った方が」

「そうします。では」

そう言い残し、ギメルは魚雷発射管室へ急いだ。


SLBM格納区画

「ヤワタ中尉。打ち上げプランBに決定したそうだな」

「ブリッツ少佐。ええ、おかげでこっちも大忙しですよ」

発射管制端末で作業するヤワタに弾道ミサイル管理責任者のブリッツが話しかける。

色白の肌にがっしりした体格の、初老と呼ぶにはまだ少し若い印象の軍人だ。

シースワロー2には14発のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)が装備されている。

二段式ロケットで最大射程は8000キロを誇る長距離弾道ミサイルだ。

本来は核弾頭等を搭載し、遠く離れた目標を攻撃する兵器である。

しかし、本来の攻撃兵器とはまったく別の使い方も出来る。

「まさかコイツで…なぁ」

ブリッツがそう言いながら、床から天井まで繋がった弾道ミサイル格納容器を見上げる。

直径約2メートル、高さ約8メートルの円筒形の容器が左右に2列、奥に7列、合計14本立ち並びそれぞれに番号がふられている。

左右容器の中央、高さ的にちょうど中間あたりに足場が通っており、備え付けの電動クレーンが動いている。

1、2、3番格納容器上部の弾頭入替えハッチが開き、担当者がせわしなく作業を続けている。


この弾道ミサイルを使い、シースワロー2から直接3人をアヴァロンまで打ち上げるのが「打ち上げプランB」である。



※注1:ジャヤプラ 赤道直下に近いニューギニア島北海岸にある海洋都市。第11次攻略作戦の為にロケット発射設備を密かに新設。現在はAUCインドネシアの管理下にある。

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