第10話 深 海


「大丈夫かね、大尉」

セイゴは拳銃をホルスターへ戻し、ごつごつした手を差し伸べる。

驚きで床に座り込んでいたアベルはその手を掴み立ち上がる。

「正直、大丈夫と言えば嘘になりますかね」

すでに息絶えている水夫が運び出されて行くのを横目に本心からそう言った。


アベルはシースワロー2の艦内を、艦長であるグラハムを探して歩いていた。

曲がり角でセイゴ副長とコックが立ち話をしているのを見かけたので行方を知らないか声を掛けようとした。

そこでいきなりセイゴがアベルに向け、携帯していた拳銃を発砲した。

正確にはアベルを背後から撃とうとしていた水夫を撃ったのだ。


ヘッドショット3発、間違いなく即死だ。

彼の横には大口径の拳銃が転がっている。

あれで後頭部を至近距離で打たれたら流石に耐えられないだろう。

いかに強力な能力を持つテトラボーグといえど所詮人間だ。

モード切替が間に合わず唯一の生身である脳を破壊されれば死ぬ。

脳を守る頭蓋骨部分は常時分子構造的に強化されているとはいえ、その強度は戦闘用サイボーグのチタン合金頭蓋に及ばない。

アベルはセイゴと共に艦長室を訪れていた。


「災難だったな大尉。EAUC内部にも少なからず工作員が入りこんでいるとは思っていたが…」

グラハムはそう言いながらアベルを客用の椅子に座るよう促す。

工作員とはオーストラリアに存在するアヴァロン共生派、現在ではメディエイターと呼ばれている武装集団の兵士である。

「こんなに早く、直接的な手段に出てくるとは想定外でした」

セイゴはアベルの真横に立ったままで端末を操作しながら答える。

「驚きました。もしアヴァロン直接侵攻要員が狙いなら、他の2人が心配ですが…」

グラハムとセイゴが自分達の素性を知っている事はウラジオストックで乗艦説明を受けた際に聞いている。

なので特に隠すこともなくアベルは話を進める。

「基地にいる間、ギメル中尉とベス少尉には護衛を付けました。すでに警護に入っています」

セイゴが端末を確認しながら続ける。

「水夫はハバロフスクから乗船してきた補充兵です。現在同じ補充兵12名を横須賀基地専従の8名と入替える手配を進めています」

ハバロフスクから同じ潜水艦内でアベルが1人になる機会をずっと伺っていたのだろうか?

それとも自身の脱出を考慮し丘に逃れられる今だったからこそ行動を起こしたのか?

工作員が死亡してしまった今となってはそれを確認する術は無い。

「これでも艦内に紛れ込まれている可能性を完全には排除できないが、現状で出来る対処はこれが精一杯だ」

グラハムがジェスチャーを加えながら説明する。

同じタイミングで乗船し、工作員と同じ身分の補充兵が怪しいとは思えない。

しかしこれから数日間、同じ潜水艦内で生活していく事を考えるとお互いにいい気分では無いだろう。

「それにしてもどこから自分たちの事が漏れたのでしょう?」

アベルはセイゴの方を見る。

「テトラボーグの事を知るのは乗組員の中でもごく一部、それ以前に直接侵攻要員を移送している事を外部の、ましてメディエイターが把握できるとは思えません」

セイゴが情報統制の状況から論理だてて推理する。

「しかし現にアベル大尉は命を狙われた。何かしらの重要な任務に就いていると思われたらからだろう」

グラハムは実際に起こった事から状況判断を詰めていく。

「…このタイミングでサイボーグが潜水艦で移動と言うのは、そういう見方をされても仕方ないでしょうか?」

アベルには思い当たる節があった。

「サイボーグ?…食堂での件ですね。コックから聞きましたが」

セイゴが通路でコックと話をしていたのはそういった理由だった。

「ん?何の事だ?」

グラハムの問いにセイゴはアベルがウラジオストックの桟橋で行った超人的な救出劇を、イオタ軍曹に目撃されていた件を説明した。

「それで一般的な戦闘用サイボーグであると説明したわけか。それは仕方あるまい…副長、イオタ軍曹とはどんな人物だ?」

「上海出身の18歳。1年間港湾設備員を勤めた後、本人の希望もあり3か月前から本艦の整備員に配属。特に不審な点はありません」

「では工作員では無いだろう。今回の任務を通達されたのは3週間前だからな」

アベルの脳裏にイオタ軍曹の笑顔が浮かぶ。

「そうですね。彼女はサイボーグの…技術的な部分への好奇心が強いだけだと思います」

「ただ彼女が親しい者にアベル大尉がサイボーグである事を漏らした節があります。そのあたりから漏れたのではないかと…」

セイゴは眉間に皺を寄せながら報告する。

「他言無用とは言っておいたのですが…」

アベルが「やれやれ」というジェスチャーと共に付け加える。

「イオタ軍曹には自分の方から改めて注意しておきます」

セイゴがそう答えたタイミングでグラハムの端末が呼び出し音をあげた。

グラハムが「お開き」のジェスチャーをしたので、セイゴとアベルは艦長室を出た。


その夜。

結局アベル達はシースワロー2艦内の部屋で仮眠を取り、翌朝の出発時間を迎える事とした。

工作員射殺の件があり、安全の為とは言え艦内通路や基地の至る所に憲兵が立ち気が休まらなった。

「丘での最後の夜なのに」とベスは不満を言いながらも部屋に戻った。

「ギメルは…人を殺した事はあるか?」

ベッドの上段で横になり、手を伸ばせ届きそうな距離の天井を見ながらアベルは下段にいるギメルに声を掛けた。

「いえ。…アベルはあるのですか?」

「無いよ。できれば一生そんな場面に会いたくない…と言えば兵士としては問題だな」

アベルはセイゴが工作員を射殺した時の事を思い出す。

銃を撃つセイゴの表情は強張ってこそいたがとても冷静だった。

恐らく今までにも敵を殺害したことがあるのだろう。

「気持ちは分かる。でももし相手が自分や…大切な人の命を奪おうとするなら、自分はその相手を殺すでしょう」

下から聞こえてくるギメルの言葉に抑揚は無く淡々としている。

アベルは少し恐怖を感じた。

「強いんだな、ギメルは。自分なら…いや、自分もきっとそうだな」

マリーの笑顔を思い出しながらアベルは小さくそう答えた。

いつの間にか下からは規則正しい寝息が聞こえてくる。

「…おやすみ」

そう小さく呟いてアベルも眠り落ちて行った。


翌朝。

シースワロー2は予定通り乗務員の一部を入れ替え、目的地を目指し横須賀基地を出港した。

3日後の打ち上げには十分間に合うスケジュールである。


ウラジオストックを出てから、アベルはギメルの姿がちょくちょく見えなくなる事に気付いていた。

そこで思い切って何処に行っているのか問い質した。

「実は…推進器に少々興味がありまして。グラハム艦長に許可をいただいて機関室の方に出入りさせてもらってます」

そして午後には再び推進器を見学すべく機関室へ向かうとの返答だった。

そこでアベルも同行させてもらうことにした。


シースワロー2の主推進器に採用されているのはリアクターの大電力を利用した超伝導水流ジェット推進器だ。

全長140メートル、水中排水量1万7千トンもの巨体を最大70ノットで航行させる能力を持つ。

ギメルの父はマスドライバーの技術者であったという。

彼自身も、アルチョムに来る前はサハリンの基地で電磁駆動車両やレールガンの整備を担当していた。

超伝導推進器には技術的な共通点があり、学ぶべきことがある言う。

「父は月面にある物資輸送用のマスドライバーの整備の職に就いておりました」

ギメルが機関室で技術士官との会話を終え、動力制御盤を眺めていたアベルの横にやってきた。

「月の物資輸送用って…ルナドライバーの?」

「ご存じでしたか」

ルナドライバーとはアルキメデスクレーターに建造された、直径80キロにも及ぶ月面最大の人工構造物だ。

本来は月の資源を地球に送るための設備だったが、後に他の太陽系惑星へも物資や探査機を送れるよう改良がなされた。

最大射出速度は時速36万キロを超え、理論上月から地球まで1時間程度で物資を送る事ができた。

「ノアの造反の時も…月面にいたんだったな」

「…はい」

ノアの造反の際、アヴァロンが周辺宙域の制圧開始と同時に攻撃したのが月のルナドライバーだった。

ルナドライバーはそれ自体が巨大な砲台としてアヴァロンを攻撃出来たため、クレーター中央の管制施設が真っ先に攻撃され使用不能となった。

その後、周辺宙域の制圧が完了し、月面への本格的な攻撃が始まった。

当時、月には5000人を超える人々が生活して居たがその全員が犠牲となった。

「ギメル中尉、今夜は飲むか」

「一応断っておきますが大尉殿、我々は作戦行動中ですよ?」

そう言うギメルだが顔が笑っている。

「ふむ。では貴官を除いてベス少尉と飲む事にしよう。出兵祝い貰った秘蔵のウォッカを」

「ご冗談を」

二人は笑いなら機関室を後にした。


同じころ、発令所では定時無線の受信準備が行われてた。

「副長、無線受信5分前です」

「分かった。受信状態に問題ないか?」

セイゴが確認の指示を出す。

「現在本艦深度100メートル、速力35ノット。曳航中のVLF受信ブイは深度10メートルで安定」

巡航中のシースワロー2の艦尾から、小型のフローティング通信ブイが有線で海面へ向け延びている。

まるで細長い尻尾のようだ。

ブイは艦の後方約700メートル、海面下10メートルを曳航されている。

監視衛星ジスプロサットの索敵能力を持ってすれば深度100メートル程度の潜水艦の動きならば把握可能である。

可潜水深度は300メートル以上を誇るシースワロー2だが、あえて観測される深度を航行し「通常任務」で有ることを暗にアピールする。

またレーザーで攻撃されるのは海面下数メートル未満までという事が分かっている。

実際それ以上はレーザーが海水に邪魔されて届かないのだ。

またVLF(長波)通信を確実に受信できるのも海面下十数メートルまでなので妥当な深度と言える。

「受信完了までこのまま、現状を維持する。周辺に異常はないか?」

「先行する無人潜航艇No1に感なし。通信状態良好。音響、磁気スペクトルとも半径10万メートル圏内無探知、異常ありません」

シースワロー2には小型汎用無人潜航艇が6機配備されている。

通常は潜水艦より先行させて海中の安全を確認させる為の物だが非常時にはデコイとして利用する事も可能だ。

「分かった。そのまま警戒を厳とせよ」

「時間です。VLF信号来ました。受信開始」

「航海ログと受信データを照合。誤差320メートル、データ補正掛けます」

航海士が報告する。

アヴァロンの攻撃でGPS等の測位衛星が全滅、無線通信や測位システムは20世紀半ばの水準にまで後退した。

幸いGPS以前の、電離層などを利用した通信技術は主に軍事目的で研究が続けられていた為、そのまま転用され活用されている。

VLFは「長波」と言われる電波の周波数帯で電離層に反射する特徴がある為、地平線の向こうへも通信を届ける事ができるのだ。

現在、運用されている潜水艦は自身の移動データログから現在地を特定する方式が取られているがこれは一定の誤差が生じる。

そこで地球上の複数の送信基地から定時に発信されるVLFの電波を同時に受信し誤差を修正するのだ。

「副長、通信にアベル大尉当てのメッセージが添付されていますが…」

「ふむ?…解読して出力してくれ」

VLFは一度発信すれば広範囲で受信する事が出来るがデータ量が小さいという欠点がある。

そのため軍では暗号化し圧縮した記号を送信し、受信側でそれを解読する方式を取っている。

「これは…何かの符丁なのか?」

セイゴは出力されたメッセージを確認し首を傾けた。


「お前たち2人の関係がマリー大尉にバレたようだ」

「うっ!?」

「んなぁ!?」

アベルとギメルの部屋に酒の事を聞きつけたベスが押しかけ3人で秘蔵のウォッカを楽しんでいた。

そこへ艦内メッセンジャーが訪れ、受け取ったメッセージを一読したアベルが2人に向かってそう言った。

驚く二人を横目にアベルは原文を読み上げる。

「ギメル、ベス、両名のバイタルデータに同時間帯異常興奮あり。留意されたし」

先日、横須賀基地に入港した際のテレメトリーを分析したのだろう。

「…バレたと考えるには早計な内容では?」

メッセージを聞いたギメルが恐る恐る意見を述べる。

「いや…これをわざわざ送ってきたという事はバレてるかな…て言うか、なんで隊長が知ってる!?」

「なんだギメル、まだ話してかったのか?」

アベルがとぼけだ顔でギメルに視線を向ける。

「いやそれは、その…すまん」

ギメルはベスに謝罪し、2人の関係をアベルに打ち明けた事を説明した。

「そっか。まぁ隊長にならバレてもいいと思ってた。予想通りの反応してくれたし」

ベスはそういって隣に座るギメルによりかかる。

「そうなのか?しかしマリー大尉はどう考えるかな」

「あぁそうだった!隊長からマリーちゃんに内密にってお願いして!」

ベスがギメルを押し退け、その反動でベッドから立ち上がり、そのまま椅子に座るアベルの両肩へ掴みかかる。

「残念ながらそれは無理だ」

「なんで!?」

「ベス少尉、潜水艦からのメッセージ発信はとても危険なんだよ」

ギメルが静かに説明する。

VLFの発信設備は電波の性質上、大規模になものになってしまう為に潜水艦に搭載する事など不可能だ。

どうしても地上と通信したい場合は同じく電離層を反射する「短波」を利用するしかなく、装置自体はシースワロー2にも搭載されている。

しかしこれは敵に場所を知られるリスクが大きく、そのため潜水艦からの発信は事実上自殺行為に等しい。

敵は今やアヴァロンだけでは無いのだ。

「なるほど。マリーちゃん黙っててくれるかな」

「少なくと現時点で上層部には露見して無いようだな。打ち上げ中止の指示は来てないから」

アベルはさも心配無いといったニュアンスでベスに答える。

「直接侵攻要員の代わりを見つける時間的な猶予が無いから目をつぶっている、という見方もできますが…」

ギメルが可能性を提示する。

「確かに。時間か…日付が変わったからもう明後日には打ち上げなんだな」

アベルが時計を確認しながら答える。

「もうそんな時間?…わたし、そろそろ戻るわ。明日は技術系の打ち合わせだから」

ベスがうんざりした表情で立ち上がり部屋を出ていく。

「そこまで送って来ます」

ギメルがそう言って付きそう。

「先に休んでる」

アベルはそういって上段のベッドに横になると酒が入っている事もあり、すぐ眠りに落ちた。


「打ち上げロケットは二段式、加速による加重は最大で18Gほどにりますがテトラボーグの御三方なら問題ないでしょう」

翌朝、朝食と朝のミーティングのあと3人はそのままミーティングルームに缶詰となった。

アヴァロン攻略作戦の直接侵攻要員として必要な知識や情報を叩きこまれているのだ。

講師のヤワタ技術中尉はサエコ大尉と同じ日本人、短髪長身にサイバーゴーグルといかにもなスタイルだ。

「ご存知の通り、普通に打ち上げたのであればアヴァロンレーザーの餌食ですが──」

壁の大型モニターが切り替わり世界地図が表示される。

その上に主要な基地の所在位置と作戦開始時のステータス情報が重ねられて行く。

「これら様々な準備と、各軍による同時妨害工作で索敵衛星を混乱させレーザー射程範囲からあなた方を脱出させアヴァロンまでの血路を切り開きます!」

ヤワタは自信気に答える。

「高度1000キロ、ジスプロサット軌道より外に脱出できる確立は?」

アベルが質問を投げる。

「85%です」

ヤワタが即答する。

「意外と高いんだ!そこを突破できればアヴァロンの防衛圏まで一直線なんでしょう?」

ベスの質問というか所感。

「ところがそうでも無いんだな」

アベルがため息交じりに答える。

「そうですね。墓場軌道の廃棄衛星やデブリ、静止衛星軌道上の放棄された宇宙要塞、それと太陽光発電プラント等が障害となります」

ヤワタがモニターを切り変え、地球と月の間の衛星軌道や人工物の情報を、自身も移動しながら両手タッチで書き出していく。

こういった説明に慣れているのか、まるで踊っているかのような滑らかな動きだ。

「デブリは確かに危険です。しかし同時にアヴァロンから身を隠す隠れ蓑にもなります」

各ポイントにある物体の詳細データが、ヤワタのサイバーゴーグルに搭載された量子AIのサポート機能で次々とモニターに写し出されていく。

「これは…カルバリオ要塞だな。記録映画で見た」

アベルがそう言いながらモニターの写真のひとつを指す。

そこには半壊した大型宇宙ステーションが映っており、ヤワタがそれをタッチすると立体映像として飛び出し詳細情報が三次元的に追加表示されていく。

カルバリオ宇宙要塞はノアの造反以降、約1年間にわたりアヴァロンと壮絶な闘いを繰り広げた宇宙空間における人類側最大の砦である。

要塞自体は物理的に強固で、数年は戦い続けられると言われていた。

しかし地球との航路をアヴァロンレーザーに抑えられ、結局1年足らずで撤退、放棄を余儀なくされた。

「かなり原形とを留めているように見えますが…」

「武器など使えるものも残ってると思います。自動化が遅れて大半が直接操作を必要とするものばかりだそうですが」

ギメルの所感にヤワタが答える。

「でも自動化が遅れてたおかげでノアのサイバー攻撃に対抗出来たんだよね」

ベスが鋭いところを付く。

「確かに。自動機器は基本AI制御ですからね。ノアがサイバー攻撃を仕掛けた際も真っ先にカルバリオが狙われましたが──」

「当時在任中だったEAUC情報軍のマルドゥク大佐が機転を利かせてノアに逆にハッキングを仕掛けたんだよ! すごいよね!!」

「それ、映画で見た。大佐の活躍で地上ではノアのサイバー攻撃に対抗するための貴重な時間が稼げたって話だろ」

ヤワタ、ベス、アベルの3人が楽し気に話を進めていく。

ただ1人、ギメルだけが話題にとり残されていた。


数時間後


昼食を挟んだ長い「講義」がようやく終わり、既に夕食の時間となってた。

艦内乗組員が混雑気味の食堂で入れ替わりに夕食を取る中、アベルはイオタ軍曹を見かけ相席することにした。

「アベル大尉、ご迷惑をかけてしまったみたいでほんと申訳ないです」

「まぁ…軍曹のせいだけじゃないけどな」

アベルはカレーを食べながらフォローする。

「そんな事は…ほんとにすみません」

イオタはうどんが湯気をあげる丼ぶりに手を付けながらも食が進まない。

「セイゴ副長から何か言われたのか?」

「いえ。直接私が言われたのは整備班の班長からです」

「班長さんは副長に言われたのだろう。繰り返しになるが軍曹に責があるわけでは無いからあまり気にするな。…ところで軍曹は18歳なのか?」

「ハイ!出身は上海でして、このシースワロー2に配属になったのは──」

2人はお互いの身の上話などしながら夕食の時間を楽しんだ。


「…妙だな」

発令所では艦長のグラハムがソナーコンソールを覗き込みながら呟いた。

「予定ではインドネシア海軍の支援潜水艦と合流する頃合いですが──」

航海長が告げる。

「半径10万メートル圏内に感ありません」

ソナー手が報告する。

「…速力を20まで落として聞き耳を立てろ」

「了解。両舷半速、速力20。主推進器を静穏モードへ」

グラハムの言葉を操舵手が復唱、指示通りに操艦する。

40ノットで巡航していた艦が徐々に速度を落としていく。

「…潜航艇No1が何かを捉えました。本艦正面距離4万8千、物体Aと命名します」

ソナー手の報告に緊張が走る。

「物体Aの正体は分かるか?それと潜航艇との距離を」

「磁気反応があり恐らく人工物ですがそれ以上は不明。潜航艇と物体Aの距離は約2万5千」

グラハムが一瞬考え指示を出す。

「距離がありすぎるか…潜航艇を物体Aに近づけ正体を突き止めろ。慎重にな。本艦は主推進器を停止、第二種警戒態勢発令!」


シースワロー2艦内に警戒態勢発令の指示が流れる。

担当者が素早く静かに持ち場に向かう気配がする。

「…嫌な予感がするな」

アベルは部屋でそう呟いた。

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