未定

@ukauka

第1話

友達主催の飲み会で知り合って意気投合

そのままゴールインしちゃいました!


---なーーんて

世の中そんなうまく行くわけない。

声を大にして言いたい。

これから婚活する女子、夢見んなよ。

あと、自信持っていいって言える男いたら

紹介してよ。







「あんたいつになったら結婚すんの?」

実家に帰る度に借金取りのようなしつこさで

ついて回る母の質問である。

こっちが聞きたいわ、そんなこと。


初めのうちは「こっちも焦ってるの!」と

いちいち反抗していた時期もあったけれど

正直な返答ももう面倒になり

「タイミングが合えば今の彼氏と」なんて

自分を虚しくさせる嘘で返すようになったのは、一体いつからだっただろうか。




大阪の中でも、夜になると蛙の大合唱が始まるくらいの田舎出身の私が、通勤だけで命が削がれる東京の満員電車を憎み始めてから、もう7年が経った。

子供の頃あれ程嫌いだった蛙が、今は

満員電車に遠慮なく乗り込んでは私を殺さんばかりに押し込んでくるサラリーマンよりは好きになれそうだった。


23年でこびりついた何とも可愛げのない関西訛りのお言葉ちゃんたちは、7年の年月にも臆すことなく、ご健在である。

全国の方言の中でも【関西弁の女子】が

可愛いなんてアンケートを世間に公表した

いつしかのテレビ番組はきっと悪くなんてない。

けれど、こっちにきてから「関西弁可愛いね」なんて評価を受けたことはないし、ましてやチヤホヤされるなんて夢のまた夢、のまた夢くらいだ。

期待させた分の謝罪くらいはしてほしい。




彼氏が出来なかった訳じゃない。

出会いがなかった訳でもない。

いわゆる顔面偏差値はボーダーラインを

多少は超えているはずだし

男子達をドン引かせるこれといった難癖を

披露した覚えもない。

それなりの人数とは付き合ってきた。


しかし、どの彼氏とも長続きはしなかった。

原因はどうやら私にあると

私をよく知る(らしい)友人は言う。

私は認めてないけど。絶対。





クーラーが強くきいたカフェで

可愛い苺が特徴のショートケーキを口に

運びながら、目の前に座る私の友人は

言った。


「あんたいつになったら結婚すんの?」


…カオス。お前はうちのおかんかよ。

鏡を見ずとも自分の顔が引きつっているのがよくわかる。

フォークに実を貫かれ、今にも食べられそうな罪のない苺さえ、今は友人の味方をしているように感じて恨めしい。


「……今の彼氏とタイミングが合えば」

「彼氏いないでしょ。

頭おかしくなっちゃったんじゃないの」


間髪を入れず現実を突きつけてくるあたりは

私の近況をさすがよくご存知だ。

お決まりのお返しフレーズは、私の日常を

監視出来ない母にしか通じないようだった。


「この間の飲み会で私が紹介した人は?

どうなったのよ」

「あー、うん」

「紹介したんだから結果くらい教えてよね。…まぁ、もう目に見えてるけど。」


一言多いのがこの友人の特徴だ。

けれど、もういつまでも結婚しない(出来ない、という表現は癪にさわる)私に付き合ってくれるのは、私の周りで唯一の独身者のコイツだけになってしまった。


そんな憎き感謝すべき目の前の友人もついに

この秋には、独身者というレッテルを

はがしてしまうのだけれど。



「……聞きたい?結果。」

「聞かずとも当てられるよ、私。

飲み会後、あなたは彼に誘われて2人きりで彼オススメのバーに行きましたね?」

「…はい。」

「2軒目のお店で、偶然あなたと彼は

お互いORANGE RANGEの大ファンだという共通項目でとても盛り上がった。」

「…ちょっと。」

「話が盛り上がり、お酒がさらに火をつけ

ヒートアップ。2人を止めるものは誰もおらず、その場の流れで2人はホテルへと足を運んだ。」

「ストップ、」

「先にシャワーに進むよう言われた貴方は、お風呂場へと足を運び、手短にシャワーを済ませ部屋へと戻った。

…いや、戻ろうとした。


しかし、貴方は聞いてしまったのだ。

彼の電話の内容を………。」



何、コイツ。

あのラブホの監視員でもしてる?

彼女の推測は、いや、もはや推測という言葉では不自然な程に、当日の状況をピタリと言い当てたのだ。

一つの行動として狂いもせず、ここまで

言い当てられるとは。

どんな術を使ったのか。




「まぁねー、あんたに紹介する前に

私の中で懸念点ではあったんだけどねぇ」

「…どういうこと?」

「私が紹介するレベルよ?まず、その辺のテキトーな男じゃなくて、気が合いそうなやつちゃんと選抜して送り込んでるつもり。」


…そうか、ORANGE RANGEのくだりは

そういうことね。

変なとこ優秀すぎるこの友人は、私の好きな

アーティストまでしっかり記憶した上で

それにバチンと当てはまる男を選んでくれたようだった。


彼女が昔からモテる理由の一つはきっとこれだ。人の情報をよくここまで覚えているもんだ。



「ただねぇ、電話の内容聞いてあんた興冷めしたんでしょ?」

「よくお分かりで。それが懸念点ってやつ?」

「そーいうこと!そこだけなの!!」



彼女の言う懸念点、それは

「彼が度の過ぎたマザコンだ」という事実。



電話の相手は愛して止まない母親だった。

彼の口から意気揚々と発せられる「ママ」という呼び名と、背筋をゾッとさせる幼児言葉。(酔っている時に私にそんな言葉を使わなかったので、母親限定らしい。)



久しぶりに感じた熱が、心底冷え切っていくのが分かった。

------これは無理。キモい!!!


彼がシャワーに進むや否や、私は足早に

ラブホを去った。

連絡先、交換してなくてよかった。

友達面子丸崩れの友人、すまん。




「何回も言うけどさぁ、そこさえ目瞑ればあとは完璧だと思うのよ、彼。

あんたがその我慢してくれれば、さ。」

「いーや、今回やけど、私悪くないって、あれは誰でもキャパオーバーやわ」

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