第33話 寄生虫

 を拾って、二週間が経った。

 動物の強さには脅かされる。

 あんなに弱っていた夏が、今ではその面影もないほど元気になっている。

 食欲も旺盛で、餌もよく食べた。

 よく眠り、よく食べる。

 元気な子供の象徴だ。

 そして、その分排泄も快調だ。

 猫は清潔好きだ。

 そのため、排泄をすると、面倒くさいからと放っておかずに、すぐ片付けてやらねばならない。

 二匹もいると、下の世話も結構大変だった。

 今も、猫のトイレを掃除していた善次郎が奇声を上げた。

 夏の大便の中に、蠢くものがあったのだ。

 一体、これはなんだ。

 気持ち悪い思いを堪えて、善次郎は割り箸で摘んでみた。

 それは、ミミズのような形をした、長さ一センチくらいの灰色に近い色をした虫のようなものだった。

 それが二匹いた。

 どうやら、寄生虫のようである。

 以前検査を受けた時には異常無しと言われたのに。

 まさか夏の体内に、寄生虫がいただなんて。

 こいつは大変だ。

 活の時には、こんなことはなかった。

 善次郎は慌てて、夏を動物病院に連れていった。

 その際、寄生虫も小瓶に入れて持っていくのを忘れなかった。

 内臓を食い荒らされてはいないだろうか。

 診察の順番を待つ間、善次郎はそればかりを心配していた。

 ここの病院は、いつも込んでいる。

 それにもって、いつも丁寧に患畜を診るので、事前に順番を取っていない限り、最低二時間は待たされる。

 診療終了時間を一時間も過ぎた頃、やっと順番が回ってきた。

 善次郎は小瓶に入れた寄生虫を見せながら、心配そうな口調で説明した。

 その寄生虫をためつすがめつ眺めた先生が顔を上げ、食欲と、下痢や嘔吐をしていないか訊いてきた。

 食欲はある。それに、下痢も嘔吐もしていない。

 善次郎がそう答えると、だったら心配することはないと、先生が自信を持って言った。

 その言葉に、善次郎が安心する。

「なにか、悪いものでも食べさせたのでしょうか」

 善次郎が尋ねる。

 無理もない。

 活の時にも、なにも知らずにイカを食べさせて、この先生にはお世話になっている。

 まあ、怒られもしたが。

 今度は怒ることなく、先生が首を振った。

 これは鉤虫(こうちゅう)という寄生虫で、まだ幼虫だという。

 野良猫にはよくある話で、下痢や嘔吐がないのだったら、体内に異常はないとのことだった。

 心配ないと言いながら、先生は丁寧に夏を診察してくれた。

 お腹を触り、口の中を見る。眼を除き込み、耳や肛門まで、つぶさに診察する。

 いつもはやんちゃな夏も、この時ばかりは大人しかった。

 まさに、借りてきた猫だ。

 たっぷり五分も診ただろうか、心配ない、もう一度、先生が言った。

 体内のことまではわからないが、少なくとも診た限り、どこにも異常はない。

 寄生虫も、多分、あの二匹だけではないか。

 そう結論を下した。

 念のため、虫下しを貰った。

 もし、まだ体内にいたとしても、これで全て駆除できるはずだと言われた。

 大したことがなくて良かった。

 善次郎は安心して帰路についた。

 それにしても、あの先生には頭が下がる。

 診療時間をとっくに過ぎていても、嫌な顔ひとつ見せず、丁寧に診察してくれた。

 そんな先生だから、善次郎は信じきっていた。

 先生の言った通り、あれから二日経つが、夏の便に寄生虫が混じることはなかった。

 この二日というもの、夏が便をする度に、善次郎は割り箸で寄生虫がいなかいかチェックしている。

 夏だけではなく、活にも寄生していないか、活の便もチェックしていた。

 不思議なことに、二匹の便なら汚いとも思わなかった。

 そうやって、一週間が過ぎた。

 もう大丈夫だろうと思ったが、念のため、電話で先生に確認した。

「一週間経って出てこなければ大丈夫だ」

 そう告げられた。

 善次郎は安堵した。

 それにしても、寄生虫とは。

 動物を飼うと、いろんなことが起こるものだ。

 まだまだ、これからなにが起こるかわからない。

 善次郎は、一層気を引き締めることにした。


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