直径15センチの声

吾妻巧

第1話

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「なんだこれ?」


 佐倉頼人さくらよりとは、廊下の片隅に目を向けて、そう声をあげた。

 茶色の小さな正方形の紙が落ちていた。近寄って見てみれば、それが再生紙のようなざらざらとした厚紙でできている、封筒のようなものだと分かった。


「これ……レコード?」


 もしかすると。そう考えながら、手に取ってみる。肌触りは思っていた通りで、中に何かが入っている感覚もある。四方のうち一辺が開くようになっていたので、そこから指を差し入れてみれば、触り慣れた、固い感触があった。

 そのまま引き出すと、黒い盤面が茶色の紙ケースから顔を出した。


「やっぱり。でも、小さいな」


 ちょうど半月のように出したレコードを手に乗せて、頼人は考える。


 レコードは手の中に簡単に収まるほどの大きさで、おおよそ15センチほどに思えた。


 レコードは盤面に刻まれた溝と、再生する際の回転数さえ噛み合わせて音を鳴らすというものだ。つまり、それさえ噛み合っていれば問題ないので、実際のところ様々なサイズが存在している。その中でも、一般的に流通している規格は7インチ(17センチ)、10インチ(25センチ)、12インチ(30センチ)の三つだ。


 しかし、今ここにあるレコードはその中でも一番小さい7インチより、一回りは小さい。一般的な規格でないということは、おそらく特注品になる。ラベルが張られていないことや、パッケージに何も書いてないことも、そうした雰囲気を漂わせている。少なくとも市販のものではないだろう。


 でもそんなものがどうしてここにあるのか。


 落とし主に心当たりがないわけではない。

 いや。つい数分前、ここで頼人とぶつかって荷物をばら撒いたのは彼女しかいないのだから、回りくどく考えなくとも、彼女――遠野真理とおのまりが落としていったと考えるのが自然だろう。


 でも――


「遠野が落とした、ってのは、なんか考えにくい、よな。聞くにしても、遠野はもう、どこか行っちゃったし、なあ」


 本人に尋ねるのが一番なのだが、その本人の姿はもうない。

 時刻はもう午後六時を過ぎている。もう図書室は閉まる時間になっているし、帰ってしまっているだろう。それは彼女が図書室の方向から来たことからも想像できた。


「明日にでも、聞いてみようかな」


 もし、本当に遠野真理が落としたのであれば、返却しなければならない。


 でも、どうやって声をかけようか。

 間違いだったら恥ずかしい。


 そんなことをぼんやりと考えながら、頼人も学校を後にした。

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