第2話 この紅魔の娘に経験値を!

 それはとある昼下がり。


「ねえ、お願いがあるんだけど」


「ゆんゆんが私を頼るなんて珍しいですね」


「う、うん……どうしてもやりたい事があって」


 ゆんゆんはぼっちをこじらせているせいか、基本的に何でも一人でやってしまう。

 だから今回みたいに私を頼る事は珍しい。



「その……レベルを上げたいから手伝ってほしいんだけど」


 おかしいの一言につきる。

 ゆんゆんは紅魔の里を出た後は、ずっと一人でレベル上げをしてきたのだ。

 それをなぜ、今更私を頼るんだろう?



「おかしな事を言いますね。アクセルの街周辺のモンスターならゆんゆん一人の方がレベル上げの効率はいいでしょう。それをなぜ私なんですか? そもそも私の出る幕はないと思いますが……」


 そもそも経験値という物は、モンスターを討伐した人の経験値しか増えない。

 私が痛めつけて、ゆんゆんが止めを刺す……というやり方が理想なのだが、それは絶対にできない。

 だって私は爆裂魔法しか使えないのだから。


 私は、リッチーのスキルを覚える事も出来たのだが、そんな事をせずに全て爆裂魔法の威力強化等にポイントを割り振ったのだ。



「付いて来てくれるだけでいいから、もしも私の魔力が切れたら、めぐみんに手伝って貰えれば。そ、それにね、お弁当を用意したの、その天気もいいから……レベル上げのついでに、お弁当でも……あっ、ううん。あくまでもレベル上げが目的で」


 なるほど、このコミュ障は一緒にお弁当を食べたいと……まぁ、そういう事なら大歓迎なのでゆんゆんに二つ返事し、ピクニックに出かける事にした。



  *  *  *



「『ライトニング』----ッ!」


 ゆんゆんはモンスターをたおした!





「『ブレード・オブ・ウインド』-!」


 ゆんゆんはモンスターをたおした!





「『ファイアーボール』-ッッッッ!」


 ゆんゆんはモンスターをたおした!






「ふぅ」


 周辺に見えるモンスターを倒し、ゆんゆんが一息つく。

 ゆんゆんが使ったのは全部中級魔法。

 ゆんゆんの中級魔法でその辺の魔法使いの上級魔法クラスの威力がある。

 さすがは私のライバル。



「というか、今レベルいくつくらいなんですか?」


 中級魔法で上級魔法くらいの威力があるゆんゆんはかなり高レベルのはず、一体これ以上レベルを上げて何をしたくなったのか? 気になった。


「今レベル89。せっかくだから90まで上げたくて」


「なっ!? 90!?」


 た、たしかに区切りのいい数字だが…………90!?

 90なんて聞いたことがない。



「そ、そうなんですか。ま、まぁ、私のライバルですし、それくらいして貰わないと……」


 少し……本当に少し動揺していると、ゆんゆんがクスリと笑って。


「ちょっと疲れちゃった。早いけどお昼ご飯にしない?」



  *  *  *



「……ふう。ごちそうさまでした。今日も美味しかったですよ」


「うう……。私の分まで食べちゃうなんて……」


「私は永遠の14歳。永遠の育ち盛りなんですから、仕方ありません」


「……一生育たないのかぁ……」


「今私の事を可愛そうな目で見ましたね。おい、何が育たなくて可愛そうなのか詳しく聞こうじゃないか」


 私がゆんゆんに飛びかかるとゆんゆんが涙目になり。


「え!? 聞こえてたの!? ごめんなさい! ごめんなさい!」


「ほら何が育たないのか白状しなさい!」


「違う! 違う! 胸の話じゃなくて! ダイエットが必要ないからいいなぁーって思っただけで!」


「胸と言いましたね! 私は別に胸なんて一言も言ってませんよ! ずっと私の事を胸の育たない可愛そうな娘だなーと思っていましたね!」


「ごめんなさい! ごめんなさい! 痛いっ! 痛いから胸を引っ張らないで!!!」



  *  *  *



「ふぅー。今日はこれくらいかな……」


 そろそろ夕方になる。

 ずっとモンスターを討伐していたゆんゆんに疲れが見えてきた。


「かなり倒しましたね。どうです、レベルは上がりそうですか?」


「うーん。まだかかるかも……」


 それもそうだ。


 そもそも駆け出し冒険者の街アクセルで、レベル89の高レベル冒険者がレベル上げをする事自体が間違っているのだ。



「明日にしましょうか。もうゆんゆんも疲れているようですし」


「ううん。もうちょっと頑張る。できれば今日のうちにレベル90になっておきたいの」


「区切りがいいから90になりたいのでしょう? だったらそんなに焦らなくても」


「そ、そうなんだけど…………あっ!」


 ゆんゆんが私の後ろの方を見て声を上げる。

 つられて私も同じ方向を見るとそこには、テクテクと可愛らしい姿で歩いてくるカモネギがいた。



「レアモンスターで高経験値のカモネギがいますね。そういえば、もともと私が爆裂魔法を覚える事ができたのも、あのモンスターのお陰と言えばお陰でしたね。せっかくですし、一匹うちで飼いますか?」


 懐かしいモンスターだ。

 このモンスターのお陰で爆裂魔法を覚える事ができたのだ。

 もし、このモンスターと出会っていなければ、私は普通に上級魔法を覚えていただろう。


 と、私が感慨にふけっていると。


「キュッ!」


 ゆんゆんの手で絞ったカモネギが、小さな悲鳴を上げて動かなくなっていた。



「え?めぐみん何か言った? あっ、それよりレベル! レベルが上がったわ! これで90! ついに90になったわよ!」


 あの可愛いカモネギを躊躇なく討伐するゆんゆんに、時の流れって恐ろしいですねと言いながら拍手を送る。


「ありがとう! ありがとうめぐみん! これでようやく90だわ!」


 ぴょんぴょんジャンプをしながら喜ぶゆんゆん……。

 そんなに90が嬉しいのだろうか?


 そもそも魔王を討伐した時ですら、レベル40だったのに、なんでここまでレベルを上げたのだろうか?


 私の頭には疑問ばかりだったが、あまりにも無邪気に喜ぶゆんゆんを見て、どうでもよくなってしまった。



「では、日も落ちますし、街に帰りましょう。今晩はカモネギを料理しましょうか」


「うん♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る