第1話 この昔話に祝杯を!
「おはよう。めぐみん」
「おはようございます。ゆんゆん……って、もうお昼ですよ!」
「だって、寒いじゃない。それに冬のお布団って気持ちよすぎて」
ゆんゆんがダメな人発言をする。
私は半ばあきれた顔をすると、それを見たゆんゆんが嬉しそうにクスリと笑う。
「あなたってそういうキャラでしたっけ? 私の中ではもっとこう優等生キャラだった覚えがありますが……」
「そうだったかな?」
ゆんゆんが不思議そうな顔で首を傾げる。
ほ、本当にこのライバルは……。
「もしかして、ダストの影響を受けたのですか? これだから旦那持ちは……」
「だから違うって! それに旦那って……ま、まさか……あんなチンピラが、だ、だ、だ、だ、旦那!? 考えただけで死んじゃうわよ! ちょっとめぐみん聞いているの!?」
「冗談ですよ。そんなに慌てないでください」
「冗談……本当に悪い冗談ね……」
ゆんゆんとダストはお似合いだと思うのは私だけだろうか…………いや、やはり私の知り合いをあんなチンピラに渡すのは納得がいかない。
まぁ、そもそもダストは……。
「旦那っていえば、めぐみんはカズマさんの事、本当によかったの?」
私が一人で考えているとゆんゆんが真剣な声で聞いて来た。
私は何度も聞かれた質問に呆れたように答える。
「またその話ですか。……ええ、よかったんですよ。……私は後悔していません」
カズマの件。
それは魔王を討伐した後、カズマからプロポーズを受けた話。
正直嬉しかった。すごく嬉しかった。
でも------
「私はリッチー。カズマと一緒に生きていく事は出来ません。単純な話です。私はカズマより爆裂道を選んだだけの事」
「そう……。私はめぐみんならてっきり『カズマも爆裂も全部手に入れて見せましょう!』って言うと思っていたんだけど」
そんな事が可能なのだろうか?
普通の人間とリッチーが一緒に生きていく……。
もしかしたら、予想の斜め上を行くカズマなら何か思いついたのかもしれない。
「まぁ、もしかしたら、そういう並行世界があったのかもしれませんね」
「並行世界かぁ~。ねえねえ、並行世界があったとしたら、どんな私がいると思う?」
「きっと、ぼっちは変わらないでしょうね」
「ひどい!」
* * *
魔王討伐後、ゆんゆんは屋敷に住むことになった。
当初、カズマ、アクア、ダクネスと暮らしていたのだが、あれから色々あってゆんゆんと二人暮らしになっている。
この広い屋敷に二人は少し寂しい。
昔は騒がしかった為か、余計に寂しく感じる気がする。
「そういえば、魔王討伐後、トイレとお風呂が怖かったよね」
ゆんゆんが懐かしいそうに昔話を始める。
懐かしい話題で私も口元が緩む。
「ふふっ、そんな事もありましたね」
「でも、カズマさんがあんな方法で魔王を討伐するなんて……今でも考えられないなー」
「ですね。最初、作戦を聞いた時は私もびっくりでしたよ」
「潜伏スキルと消毒ポーション、千里眼、姿隠しの巻物を使って、魔王城のトイレの個室に引きこもって、魔王がトイレに入ってズボンを脱いだ瞬間、お尻にダガーを突き刺すなんて……」
「ええ、それでトイレが怖くなった魔王やモンスターはトイレに行けなくなり……その後、膀胱が破裂して死んでしまったんですよね」
「そうそう。それで親が『悪い子にしてると、トイレにカズマさんがやってくるよー』と言って、子供達を恐怖のどん底に陥れたのね」
「ええ、まぁ、恐怖したのは私達もですが……」
「うん……。あれ以来、お風呂とトイレに入るときは、本当に誰もいないのか? チェックするようになっちゃったし……」
「ええ、本当に怖いですね。カズマは」
怖いと言いながら私達は笑っている。
まぁ、今となってはいい思い出だ。
……まぁ、当時は本当に怖かったけど。
ちなみに潜伏スキルが通用しないアンデッド系は、トイレに行かないだろうという考えの元、カズマはこの作戦を行ったのだが……。
アンデッドの王、リッチーになった今だから言える! リッチーはトイレ行きます!
それにしても、カズマが潜伏していたトイレにアンデッド系が来なくて本当に良かった……。
もし、来ていたらと思うと……本当にカズマは運が良い。
「その後も大変だったよね……」
「ああ、魔王を討伐したお陰で大金持ちになった話ですか?」
「う、うん……」
やり方はどうあれ、魔王を討伐した報酬を私達は受け取った。
魔王城を守っていた幹部討伐も含め100億エリス近くあったのだが…………。
「まさかお金を預けていた銀行が倒産……店長がお金を持って逃げるだなんて……」
まさかの展開だった。
これから預金の金利だけで行きていこうと思っていたら……。
もちろん鬼になったカズマとアクアの活躍で店長を捕まえたが、もうすでに手遅れでお金はほとんど使い込まれた後だった。
「いえ、あれはあれでよかったのです。カズマとアクアはお金を持てば持つほどダメになっていくのですから」
「でも、まさかその後レストランを経営するなんて……」
「ああ、カズマが手元にあった10億エリスを元手に、毎月安定した収入が欲しいという事で始めたんでしたね」
「そうそう、でも大変だったよね。……あれ? えーと、カズマさん何を言ったんだっけ?」
「『働きたくないでござる。働きたくないでござる』ですよ」
「ああ、そうそう。『働きたくないでござる』っていいながらガッツポーズするカズマさんが、もう可笑しくって、つい声を出して笑っちゃった」
ゆんゆんが当時を思い出して、笑顔になる。
私も当時を思い出しながらお喋りに集中する。
「まったく、営業時間がお昼の3:00~5:00の2時間だけとかダメでしょう」
「カズマさんってお昼まで寝てるし、夜は遊びに行っちゃうしね」
「そうです!まったくカズマは……」
「それで私とめぐみんとダクネスさんの3人で朝~夕方まで。なんとか説得したカズマさんとアクアさんが夜から働いてたんだよね」
私達が働く時間帯は、レストランというより簡単な食堂という感じだった。
そもそも私とゆんゆんは家庭料理しか作れないし、ダクネスも簡単なレシピ通りの料理しかできない。
夜はカズマが取得した料理スキルを活用し、アクアがウエイトレスをやっていた。
「それでそれで------」
「まったく、カズマは----」
私とゆんゆんは飽きもせず、昔話に花を咲かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます