八章:こうしてオレたちは反乱党と出逢った

 いよいよオレたちの、夜中の二人旅が始まった。学校からの距離をある程度稼いだ所で、エメラインが懐から杖を振るってホタルを召喚した。外の鬱蒼とした暗がりの中ではこれらがカンテラ代わりってことか。順風満帆に飛行を続けるオレたちに、ホタルはいつまでも寄り添ってくれる。


 正直言って、彼女の肩の温もりには癒しの効能の存在を思わせる。添えた手に丁度フィットするような、癖のない丸みを帯びた形で、いつしか二人きりで、延々とボディタッチが継続していることによる緊張感も嘘みたいに和らいでいった。


「まずは反乱党のアジトへ向かいましょう」

「そうだな。またドレイン・ドラゴンとかが奇襲して来ないように、気をつけよう」

「分かりました」


 オレたちは周囲を警戒しながらエイルシティのアジトへ向かうべく、砂漠のように広がる暗黒の草原を飛んだ。

「見えて来ました。あの街並みがそうですね」

 遠目に建物の群れが見えてきた時だった。


「そこで何をしている!」

 突如、黒ずくめのローブをまとった怪しい奴らがトリオで現れ、オレたちはあっと言う間に空中で取り囲まれてしまった。どいつもフードを目深に被り、顔が見えない。

「お前は、ベガんちのガキンチョだな?」


「おい、ガキンチョって誰に向かって言ってんだ! この方は、ベガ王室の令嬢、エメライン・ベガ様だぞ!」

 お姫様を貶され、オレは感情的に抗議した。

「うるさい! もう王室は失脚した。コイツは最早ただのガキンチョなんだよ」


 いきなり現れて随分と横柄な態度……まさか。

「さあ、エメライン、お前もご両親と一緒に強制収容となってもらう」

 やはり、シャドウの構成員どもか。

「そんなことは、させません!」


 エメラインは魔法の杖を取り出し、先端を灯して対抗の構えを見せた。しかしそれと同時に三人の男たちも魔法の杖を取り出し、先端を灯す。数的にこちらが不利なのは明らかだった。エメラインも三者を同時に警戒する余り、攻撃の手を出し切れずにいた。


「待て!」


 絶望の空気を切り裂く声が響き渡る。

「奴らか!」


 三人組は確信したように、オレたちに背を向けて横一列に並ぶ。その向こうには、グレーのローブをまとった五人組の少女が、二・三の隊形で現れていた。前列の二人は、右の方の胸元に緋色、左の方には水色と、それぞれ六芒星があしらわれていて、銀色のホウキにまたがっている。その後方の三人組は手下なのか、六芒星も何もあしらわれておらず、ホウキもそんじょそこらの市販物だった。


「我らこそ反乱党! 人間を足蹴にする影どもの蛮行は決して許さぬ!」

「何だと、このアマども!」

 針を受けた男が杖から黒い光線を放つと、五人の少女はそれを避ける。魔術師たちが入り乱れる混沌に巻き込まれまいと、エメラインがホウキをバックさせる。


「ケミカル・ブリザード!」


 そのコールが聞こえるや否や、少女の一人の杖から勢い良く粉っぽいものが噴き出し、男を巻き込んだ。男は真っ白けでムセまくって戦いどころじゃなくなったようだ。


「アイアン・スティック・フロム・ヘヴン!」


 それが叫ばれると、杖の先から銀色の、指のように丸っこい先端をした物体が勢い良く飛び出し、二人目の音の喉の辺りを突く。これには思わずオレにもエグい痛みが伝わってくるイメージがして顔をしかめずにいられなかった。


「オリオン・パンチ!」


 怯んだ二人目に、また別の少女が杖の先を青白く輝く拳に変える。勢い良く飛び出した拳が二人目の顔面を撃ち抜く。正直、アイアンなんちゃらよりも派手に伝わってくる衝撃だ。


「ディスアレンジャー!」


 最後に六芒星をまとった少女が、残り一人の男に杖からエネルギーのような弾を放つ、これがソイツのホウキに当たった瞬間、いきなりホウキが独りでに暴れ出し、男を大いにパニックにさせた。


「おい、何をするんだ! やめろ! オレの言うことを聞け!」


 男はたちまちホウキから滑り落ち、かろうじて両手で鉄棒のようにしがみついた状態になった。コントロールを失ったホウキは、奴を連れて明後日の方へと駆け出してしまった。

「おい、待ってくれ!」

「お、覚えていやがれ!」

 あと二人の男も、宙吊りになった者を追うようにして飛び去って行った。


「すげえ……」

 マジック・ファイトとは違う、ゲリラ的な修羅場が織り成す迫力に、オレは感嘆した。

「大丈夫でしたか、お姫様」

 赤い六芒星の少女が仲間とともにオレたちを気遣うべく駆け寄った。


「はい、おかげさまで助かりました」

 エメラインが優雅な声で無事をアピールした。

「あれ、後ろ側にいるのは、ハーバート・ギャラクシアスか?」

 突如名前を呼ばれて、オレはドキッとした。


「何で知ってるんですか?」

「君こそ、マジック・ファイト・ユースチャンピオン。エメラインからは彼が王室に来て祝勝会をする予定だと言うことを教えてもらった」

「そうか」


「噂によるとお姫様に一目惚れしたそうな、詳しくその話を聞かせてもらおうか」

 少女は意味深なニヤケ顔を見せた。

「ほ、惚れてなどいない」

 オレは少女から目を背けながら否定した。


「ウソをつけ。耳たぶが赤くなってるぞ」

「全然正義の味方の態度と思えないんですけど」

 オレは思わず少女への不満を漏らした。


「アシュリー、あなた、今回こそちゃんと仕事しました? 三人組にちょっと声をかけたぐらいでしょう?」

 水色の六芒星の少女が物言いをつけた。

「マリア、何を言う! 私だって、しっかり戦いに参加していたぞ!」

「じゃあ、今日の戦いで見せ場を作った人たちには、正直にそれを報告してもらいましょう。まずは、リリアンから」


「私は、ケミカル・ブリザードで相手を真っ白にしてやりました」

「ジェニーと、ケイラは?」

「私は、アイアン・スティック・フロム・ヘヴンで二人目の喉を」

「その二人目にオリオン・パンチを」

「そして私はディスアレンジャーで三人目のホウキを暴走させて終了、と。アシュリー、またあなた、サボッてましたね」


 四人の少女がアシュリーにジト目の包囲網を向けた。

「サボったんじゃない。あの性悪オヤジども相手に、大立ち回りを見せたぞ」

「ただオヤジたちの攻撃にビビッて飛び回ってただけじゃん」

 マリアがドライに指摘する。


「リーダーに向かってネチネチとしたその言い方は何だ!」

「事実を申しているだけです。リーダーがしっかりしていないと、部下たちはどうしたらいいのか分かりません」

 一応、邪悪な連中を追い払うことに成功はしても、こうやって反省会はしっかりやると言う意味では、反乱党はひとまず健全なグループと言った方がいいのかとオレは分析した。


「大体、アンタはアジトでもソファーに寝そべり、私たちにあれこれ指示を飛ばすばかりじゃないですか。これじゃあ怠け者ですよ」

「仕方ないだろう。成功と言うのはなるべく最小限のリスクで上手くやるのが鍵なんだ。だからリーダー、すなわち司令塔が手を汚し過ぎるのもどうかと考えてね」

「自分が動きたくない言い訳でしょ」


「何だと、お前達! リーダーをなめる奴は逆さづりにしてボコボコに……」

「それ正に『シャドウ』がやってる奴! アンタ自分の立場てんで分かってないでしょ!」

 マリアが半ば憤りながらツッコミを入れた。


「あの、お取り込み中失礼しますが……」

 エメラインが戸惑いがちに反乱党へ声をかけた。

「あっ、何とも、ベガ王室のお姫様ではありませんか。大変お待たせして申し訳ありません」

 マリアと部下たちがエメラインに頭を下げる。アシュリーも一応、頭を下げているが、他の娘たちと比べて角度が浅い。コイツ、それでも反乱党のリーダーかよ。オレどころか世間がそう思っちゃうぜ。


「いえいえ、大丈夫です」


「早速こう言っては何ですが、こんな所でホタルが泳いでいては、また別の敵に見つかってしまうかもしれません。早くアジトへ移動しましょう」

 アシュリーが取り繕ったように忠告してきた。て言うか正義の味方の立場と分かっていてもコイツに指図されるのは幾分か気が引ける。

「分かりました」


 こうして反乱党に護られながら、オレたちはアジトへと向かって行く。エメラインだけでなく、正にオレも王子様になったみたいと思うと、何だか心地良くなって、彼女の背中の方へ少し前かがみになりながら、アジトまでの道を全うした。

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