第十五話 GOODNIGHT

なぁ、俺頑張ったんだよ。

湧き上がってくる殺意も必死で抑えて作戦を練ってさ。


『ウン、分カッテルヨ。』


最初からライトをつけてスマホを忍ばせたら砂煙が立つ前にスマホが見つかると思ったんだ。

だからタイマーをつけて忍ばせてやったんだよ。

色々俺なりに工夫したんだ。


『ウン、ソウダネ。』


それでも……勝てなかったんだ。

俺はあいつを殺して恨みを晴らして、前の生活に戻りたかった。

それだけだったんだ。

だけど……


『ダイジョウブ、陸人ハ恨ミノ感情ヲ忘レナイデ。

 ソレナラ陸人ハ




 ――マダマダ強クナレルカラ。』



==========================


吸血鬼は目の前で起きている光景を信じることができなかった。

左腕を失い意識も失った少年が再び立ち上がるなど誰が考えられるだろうか。


「コロス……コロス……」


陸人はその単語だけを繰り返し呟きながら吸血鬼に一歩ずつ近づいていった。

左腕から大量の血を流しながら陸人はふらふらと歩いている。

息遣いは荒く今にも倒れそうだ。


吸血鬼は最初はそんな陸人を気味悪く見ていたが、徐々に哀れに思えるようになっていた。

自分のせいで少年をここまで豹変させてしまったという罪悪感に胸が傷んでくる。


「オ前ヲ、コロス……」


陸人は目が虚ろになっているが照準は吸血鬼の一点に集中している。

吸血鬼への恨みだけで動いているようだ。

今の陸人は今までに無い異様な雰囲気を出していた。

いや、今までに無かったというよりは水面下に潜んでいた何かが溢れ出したかのような――


吸血鬼はそんな陸人から逃げずに立ち向かう。


「私は君になんと詫びればいいのだろうか。

 本当に申し訳ないことをしてしまった…」


吸血鬼は右腕を振り上げ唇を噛みしめる。

自分の手で壊した少年を自分の手で殺さないといけないという事になんとも言えない焦燥に駆られる。


だが本当に辛いのは彼の方なんだ、私はこの罪を背負って生きなくてはならない。


「今更君に謝ったところで何にもならないな。

 せめて私の手で早く楽にさせよう。」


そして私は右腕を振り下ろした。

思わず目を逸らしてしまう。


ズパッ!


綺麗に切れる音がした。

私は拳を強く握りしめる、爪が手の平に食い込む程に。

足元に目線を落とす。肩も自然と落ちてしまう。

吸血鬼の周りを嫌な風が吹いていく。


私は今日起きた事を絶対に忘れない。

これからまた人間を恨めという呪いに悩まされることもあるだろう。

だがその度に彼の事を思い出し、私は呪いに打ち勝ってみせよう。


もう、こんな悲劇を起こしてはならない……





「コロス……!」


その時だった。陸人の声が聞こえてきたのは。


?!

急いで視線をあげるとそこには相変わらず今にも倒れそうな全身ボロボロの陸人が立っていた。

陸人の後ろにある建物が切れている。


な、なぜだ?!

影で私の攻撃を防いだのならまだ分かる。

だが今は彼の後ろの建物が切れている。それはつまり『私の攻撃が彼をすり抜けた』という事を意味する。


……私は左腕を振り上げる。

今度こそ息の根を止める、それだけを願って――



――――?!

私は今の自分の姿を見て驚愕する。

私は『左腕を振り上げた』だけでありまだ振り下げてはいない。

それなのに今の私の体は


――左腕を振り下げた後の状態になっていた。

私はいつの間に左腕を振ったのだろうか。

それに覚えがないにしろ私は今確かに左腕を振り下げている。

それなのに能力が発動していないのだ。


「ウ、ウアアアァァァァ!!」


すると突如陸人が叫びながら走り出した。

前傾姿勢で頭を左右に振りながら近づいてくる。

それによく見ると涙を流している。


今の陸人からは人間性というものを微塵も感じることは出来ない。

ぐちゃぐちゃに混濁した感情が陸人を支配しているようだった。


吸血鬼が身構えると陸人はバランスを崩し転んでしまった。

陸人は両手を地面について立ち上がろうとする。しかし左腕がないためまた転んでしまう。


「ハァハァ、オ前ヲ……殺ス!!」

陸人は腕のない左腕を必死に動かして起き上がろうとする。

自分の左腕が無いことに気付いてないようだ。

恨み、悲しみ、殺意、この三つが陸人を衝動的に突き動かしているように見える。


この感情を表現しようにも表現出来る容量を超えてしまっている。

感情に支配された者の成れの果て、それが今の陸人の姿なのだろう。

彼は以前の姿に戻ることは出来るのだろうか。


吸血鬼は右足を振り上げる。

今度こそ息の根を止めてやろう。先程から起きている不可解な現象も見極めてやる。


吸血鬼は自分の右足に目をやる。

今度は勝手に振り下げていないようだ。


大きく深呼吸をし、もがいている陸人に狙いを定める。


「今度こそ楽にしてやる!!」


吸血鬼は全力で足を振り下げた。

風の刃は無事発射されている。地面に横たわっている陸人に避ける術はない。

よし、このままいけば必ず当たるはずだ!


しかしその時であった。

陸人に風の刃が当たる瞬間、陸人の体が消えたと思うと立った状態で少しこちらに近づいた陸人が突然現れた。


……?!

吸血鬼は右足を地面につけながらも陸人から目を離さなかった。


何だ今のは?!

瞬間移動? いや、それでは私の体を勝手に動かした理由にはならん。

第一能力は一つしかないはずだ。


陸人はまたゆっくり吸血鬼に近づいてくる。

私はそんな彼に少し恐怖を感じていた。自分の傷をものともせず、私の能力を避けて近づいてくる彼がとてつもなく大きなものに見えたのだ。


するとまだ離れていたはずの陸人が一瞬で目の前にまで近づいてきた。


「く、くそ!!」


私は咄嗟に左足で踏み込み全力で陸人に向けて拳を放った。

すると私のパンチは避けられることもなく彼の腹に直撃した。


な、なんだ? 能力でなければ当たるのか?

攻撃が当たったことで冷静になった私は今度は全力で陸人に向かって拳を放つ。


「いい加減、目を覚ませぇぇ!!!」






========================


「うっ……!!」


今まで真っ暗だった俺の視界に突然光が差し込んだ。腹辺りに激痛が走る。

な、なんだ?!さっきまでの記憶がない。

左腕を切り落とされた所までは覚えているのだが――


――殺セ…サッサト吸血鬼ヲ殺セ……


ま、まただ。

俺の中にいる何かが語り掛けてくる。


母さんが殺された日から俺の中に何かが生まれた。

最初はただの喪失感とかそういうのかと思ったが、そいつはある日突然俺に語り掛けてきた。


『吸血鬼ヲ殺セ……』


その声は日に日に大きくなり俺もその言葉と同調するようになっていった。


俺はこいつをただの殺意や悲しみなどではないように感じる。

こいつから何らかの明確な意志を感じるのだ。

最近はこいつに浸食されてまともな思考ができなくなっている。


『サァ、早ク起キ上ガレヨ。』


この激痛の中で立ち上がれる訳無いだろう。

それに今無策で立ち向かっても返り討ちにあうだけだ。


もし死んでしまったら、桃子ちゃんや翔ともう会えなくなるんだ。

そんなの、俺には耐えられない…


『何言ッテルンダ、オ前ハ桃子ヤ翔ガドウナロウト関係無イハズダロ?

 仇サエ取レレバソレデ良インダロ?』


ち、違う! 確かに吸血鬼は憎いがそれ以上に俺には大切なものがあるんだ!

俺は母さんに「生きて」と、そう言われたんだ……


『ソノ大事な母サンを殺シたのハ誰ダ?

 オ前ニ殺させたノは誰ダ?

 今目ノ前ニイル奴ダロウ。もっと憎メ!ソれがオ前の力になる!!』


黒い感情が俺の理性に入りこんでくる。


それでも……! 俺は生きナくちゃいケないんだ!

母さンノ意思を無駄にする事は出来ナイ!


それに伴い陸人の心をまた黒い感情が支配していく。


駄目だ、コノまま立ち向かッテも死ぬダけダ。本能に身ヲ任せテモその先ニは破滅しカ無い。

こノ感情に支配サレたら、俺はモう終わリダ。


視界がまた暗くなっていく。


『あいつを殺ソウとしていル時のお前ガ一番良い顔ヲシテたぞ?

 ホントはあいつを殺しタクて仕方ないんダロ。』


それでも……いや、俺は……


陸人は殺意を受け入れ始めてしまった。


さっきまでの記憶が無いのは、恐らく一時的にこの感情に支配されていたからなんだろう。

それで返り討ちに遭って、その痛みで意識を取り戻したって所か。


陸人の残った理性は最後の思考を始める。

この理性が無くなった時に陸人は死ぬからであろう、走馬灯のように記憶が頭を駆け巡る。


そういえば思い返したら俺は皆に酷い事をしてしまったなぁ。

翔を俺の仇討ちに利用しようとして、使い物にならないと分かったら切り捨てて……最低だな、俺って。

桃子ちゃんも俺を心配して付いて来てくれたって言うのに、邪魔だって突き放して……


陸人は今にも立ち上がろうとする自分の体を抑える。


二人に謝りたいけど、許してもらえないだろうなぁ。それくらいの事をしてしまった。

そう思えば今この状況は俺にピッタリなのかもしれない。

誰にも迷惑を掛けずに一人で死ねる、最高だ。


陸人は消えていく理性を感じながら、死ぬことを受け入れた。


母さんや翔、そして桃子ちゃん。俺の勝手な行動のせいでこの三人にはとんでもない迷惑を掛けてしまった。

だけど今は誰にも迷惑を掛けていない、勝手に一人で死ねる。それが今の俺の唯一の功績だ。


自分の本能に支配されていく感覚と今から死ぬという恐怖で陸人の体が小刻みに震え始める。

陸人の目から涙が溢れ出す。


「皆、ホントにごめんなぁ。

 俺は母さんの仇を取りたかっただけなのにいっぱい迷惑かけてさぁ。」


視界が黒く染まっていく。

残っている理性はほとんど無い。

しかし陸人は泣きながらも悔いは無いと笑ってみせた。


「今から俺、死ぬけどさぁ!

 俺が死んだら俺の事なんて忘れて今まで通り暮らしてくれ!

 俺みたいに誰かを恨んだりするなよ!恨んだって良いことなんて一つもないからな!!」


陸人は大声で叫ぶ


「吸血鬼なんかに負けんじゃねぇぞ!!

 俺の分まで、幸せに生きてくれ!!!」


最後の言葉を言い、陸人は黒い感情に蝕まれていく。

陸人の心を様々な感情が駆け巡る。悲しみや怒りで胸がはち切れそうになる。

もう何も考える事が出来ない。


――ばいばい、桃子ちゃん……翔……。


そして、陸人の視界は完全な黒に染め上げられた。
























「陸人くん!!!!!」


自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。俺は誰かの声で微かに意識を取り戻した。

何度も思い返したことのある大好きな声だ。


視界が少し見えるようになってくる。

辺りを見渡すとその声の主は目の前にいた。


「桃子、ちゃん……。」


声の正体は泣きながら陸人を抱きしめている桃子だった。

陸人は桃子の姿を見て罪悪感にかられる。


あんなに冷たく突き放した俺を追いかけてきてくれたのか……


桃子は陸人の顔を見つめながら抱きしめている腕により力を込める。


「私は陸人くんに迷惑を掛けられたなんて思ってない!

 生きててほしい!陸人くんに死んで欲しくなんてないよ!!」


陸人はまだ殺意に、恨みに囚われている。


「それでも俺は……一度ならず二度までも自分の本能に負けてしまった。

 大切な人さえも捨て駒にして目的を果たそうとした……!

 俺に生きる価値なんてもうないんだよ!

 俺が生きていたって皆に迷惑を掛けるだけだ!!」


桃子は身を乗り出してそれを否定する。


「そんなことない!陸人くんは私を助けてくれた!

 自分の身を犠牲にして、屋上でバカみたいに寝てた私を助けに来てくれた!

 その日から陸人くんは、私の救世主なの!

 だから、お願い…死なないで……!」


桃子は陸人の胸に顔をうずめながら体を震わせている。

陸人はそんな桃子に心を打たれながらも頭の中の靄を振り払うことが出来ない。


「でも、ダメなんだよ……。

 俺は今でも目の前にいる吸血鬼を殺したくて仕方ない。

 この先もお前らに迷惑を掛けるだけだ。

 だからもう…死なせてくれ……!」


そう、俺が生きていたってまた皆に迷惑を掛けるだけなんだ……。

それに疲れちまったんだよ。

だから、お願いだからもう死なせてくれ……。


すると桃子はまたこちらを見る。


「私は!」


何かを言おうと口を開いたがすぐに閉じてしまった。

桃子は目を閉じ胸に手を当てる。

そして深呼吸をし、何かを決意したのか目を開き陸人を見つめる。


「私は……!」


そして、桃子がついに口を開いた。




「私は、陸人くんの事が好きなんです!!」




え……?

突然の言葉に俺は目を白黒させる。

今、なんて言った?

桃子ちゃんが俺のことを?


桃子は頬を赤く染め少し下を向き照れていたが、再び陸人の顔を見つめる。

桃子は陸人の頬に手を当て、優しく微笑みながら語り掛ける。


「私ね、陸人くんが私を助けてくれた日から毎日陸人くんのことを考えてるの。

 あなたの事を思い返して、胸を熱くして、次はいつ会えるかなって。

 そんなことを毎日考えて……」


桃子の頬を一筋の涙が伝う。


「それなのに…死のうとなんてしないで……。」


桃子は…そんなに俺の事を思ってくれていたのか?

それなのに俺は、桃子を突き放して……。


いや、それでも俺はこれ以上皆に迷惑を掛けることに耐えられない。

俺のせいで誰かが傷つくのを見たくない……!


「今度は私が陸人くんを助ける番。

 もしこれから陸人くんが悲しくておかしくなりそうになっても、傍にずっといて目を覚まさせてあげる。

 死んじゃいそうになったとしても、私が陸人くんを死なせない。」


陸人は自分を見つめながら優しい言葉を語り掛けてくる桃子から目を逸らす。


「俺は、救世主なんて大層なもんじゃない……。勝手に過大評価してるだけだ。

 俺が何をしたって誰かに迷惑を掛けるだけだったんだ……。

 俺がしてきた事は……」


陸人の目から涙が溢れだす。


「力も何も無い、俺の自分勝手な偽善行為だったんだ……!」


その言葉は今まで自分のせいで傷つけた人達への懺悔のようであった。

背負おうとしても次々とやってくる後悔や責任が陸人を押し潰す。今の彼の感情は、陸人一人で背負うには重すぎた。


そんな陸人の手の上に桃子は自分の手を重ねる。


「それなら今度は私が陸人くんと一緒にその偽善行為をする。

 二人が力を合わせれば今度は偽善行為なんかじゃなくなるはずだよ。

 今度は私があなたを守ってみせる。」


桃子の言葉が冷たく凍っていた陸人の心を溶かしていく。

今まで一人で背負いきれなかった、耐えきれずに壊れそうになっていた心に桃子が寄り添う。

それが今の陸人にとって何よりもの救いであった。


「俺は、生きていてもいいのか……。

 今からでもやり直せるのか……。」


陸人のその言葉に桃子は笑顔で答える。


「もちろんやり直せるよ。

 これからどんな困難がこようと私は陸人くんの味方だよ。

 それに、私の救世主はそんな簡単に負けたりしないのです!」


桃子が自信に溢れた顔で誇らしげに俺の事を自慢する。

俺は、そんな大層な人間になれるのだろうか……


「桃子…。」


桃子は枯れそうな声で陸人に語り掛ける。


「だから、死ぬなんて言わないで……。」


陸人から黒い感情が消えていく。

この一週間自分の胸をきつく縛っていた何かが解けていくような感覚がした。

なぜ俺は一人で吸血鬼に立ち向かったりしたのだろうか。

こんなに近くに俺の事を思ってくれている人がいたというのに……。


俺は自分の行為を恥じる。

吸血鬼を殺すためなら桃子ちゃんや翔がどうなろうと良いと考えていた自分を殺したくなる。

俺は嗚咽をこぼし、涙をこぼしながら桃子を強く抱きしめた。


「桃子…!

 本当に、ありがとう……っ!」


桃子は陸人のその言葉を聞いて安堵する。


陸人は涙を拭いキッとした表情で目の前にいる吸血鬼を睨み付ける。

吸血鬼は相変わらず俺達の事を見ているだけで動こうともしない。


「桃子ちゃん、本当にありがとう。感謝してもしきれないくらい救われたよ。

 でも、今は俺のことはいいから逃げてくれ。

 吸血鬼がまたいつ俺達を襲うかも分からないんだ。」


「そんな……!」


俺の言葉に桃子が何かを言おうとする。

しかし吸血鬼はそれを遮った。


「いや、その心配はいらない。私は今すぐにでも帰ってこの傷の治療をせねばいかんのでな。君たちも帰るといい。

 ……それに三対一では分が悪いしな。」


三?

俺が後ろを振り返るとそこにはいつからいたのかヒサメが立っていた。


「ヒサメ…お前も来てくれてたのか。」


「ま、まぁ皆さんがあまりにも険悪だったので様子を見に来ただけです。

決して心配で付いてきたわけではありませんからね!」


ヒサメは分かりやすいツンデレを発動しながら心配で来てくれたと教えてくれた。


「全く、あなたは先走り過ぎなのです。ゲームが始まってから1時間も経たないうちに死んでしまうなんて、情けなさすぎますよ。」


「ハハ、ほんとにごめんな。

 これからは気を付けるよ。」


吸血鬼は穏やかになった俺の顔を見てから口を開いた。


「私の名前はルード=クリュー=ベルヘモンド。400年前から生きているヴァンパイアロードだ!

 君が私の事を恨んでいるのはもちろん分かっている。

 謝っても許されないということも分かっている、だが…」


吸血鬼は胸元に手を当て俺に頭を下げた。


「本当に、申し訳ない……!」


俺は頭を下げる吸血鬼を見て本当にこれが母さんを殺した吸血鬼なのかと疑問に思う。

さっきまでと様子も全く違うし、こいつは二重人格なのか?


すると吸血鬼は踵を返して俺達に背を向けた。


「それでは私は帰るとしよう。

 もしまた会った時は更に熱い戦いを期待しているぞ。」


吸血鬼は翼を羽ばたかせ始めた。


「それと、元に戻れて良かったな。」


そう言い残して吸血鬼は空を飛んで行った。


俺は吸血鬼の後ろ姿を撃ち落とせないかなぁと考えながら見送る。


するとヒサメが急に近づいてきたかと思うと俺に顔を近づけ無言で見つめてくる。

桃子は何事かとあたふたしている。


「えっと…どうかしましたか?ヒサメさん。」


俺が質問しても返事がない。何だというのだろうか。



―――あ、これってもしかしてヒサメの言ってた


「あのー、ヒサメも俺たちの仲間になる、か?」

「ええもちろんです!

 今のあなた方は見ていて危なっかしいので私が仲間になってあげましょう。」


俺が仲間に誘うとヒサメは食い気味に応答してきた。

たしか俺たちの仲間に入りたい人は目を見てくるって言ってたな。

しかしこんなにプレッシャーを掛けられるとは……


俺がある種の圧迫面接に怯えていると急に体に寒気が走ってきた。

あ、そういえば俺左腕切れてて絶賛大出血中なんだった。


張りつめていた緊張感が薄れたためか意識も薄れていく。


あれ…これ俺結局死ぬんじゃね?

左腕は切れてるし血はないしで…


せっかく明るくなった視界がまた暗くなっていく。


俺が倒れると心配して駆け寄ってくる桃子とヒサメ。

俺たちが戦ったせいで荒れに荒れている街並み。

そして遠くであれは…女子高生か? 誰かが俺の事を見ている。


これが俺の覚えている最後の景色だった。

激動の一日だったためか疲れも限界に達している。


そのまま俺は意識を失った……

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