第八話 陸人は

「悪魔を、呼び出すね・・・」


例えば相手が時間を止めるとかいうチート能力でも悪魔がルールで能力の使用に制限をかけてくれたなら、確かにそれはこちらの大きなアドバンテージになるだろう。

だが負けたら一発GAMEOVER・・・

これは使い時を見極める必要がありそうだな


「この権利を使いたい時は敵の5m以内で胸に手を当てながらHello・Inhumanityと言ってください。それで発動しますので」


嘘だろ、厨二病かよ。


「・・・分かった、他になんか説明することはないか?」


「そうですね、細かく言うと色々ありますがゲーム的なことで言うとあと一つだけあります。」


そういうとヒサメは俺の近くに寄ってきた

そして手に何かのチケットを持ったかと思うと


「For you あなたに私のチケットを」


と呟いた。

するとさっきまでヒサメの手元にあったチケットのような物をいつの間にか俺が持っていた


「まぁ今ので大体分かったと思いますが自分の所有物を1m以内にいる相手に渡すことが出来るシステムです。

 簡単に言えばモ●ハンのアイテムを渡すやつ、みたいな。」


「・・・これ、なんかに使える?」


「この技を使うと渡された相手は渡された物を既に装備しているという所が特徴です。

これを使って相手に服を渡したら渡された相手はその服をすでに着用しているんですよ!

早着替えに便利でしょう。」


ヒサメが謎に自信に溢れた顔をしている

意外とずれてる所もあるんだな・・・


「あと今渡したのはディ●ニーランドのチケットです。

 まぁ私からこのゲームに参加するあなた方へのプレゼントだと思って受け取ってください。」


俺は手元のチケットを見た


『有効期限 2017年5月7日』


うん、今日は5月6日だ。

あとここは滋賀県、非常にゴミ。


こいつ、予想以上にぬけてる所があるみたいだな・・・

俺が少し呆れていると頭の中に無機質な声が響いた


『能力のインストールが完了しました。』


その声と共に俺の頭に能力に関する情報がなだれ込んでくる


『影の使従』

:自分の影を半径10m以内まで自在に動かし操ることが出来る。


影は大きさ、形が変幻自在で鋭くして刃物のように使ったり平らにして踏み台のように使うことも出来る。


また、操っている影が他の物体の影に触れている間は、その物体をその場に固定することが出来る。(人間や動物など生きているものには無効、また固定できる物体は一度につき一つまで)


影が攻撃され大きなダメージを受けると影を一定時間動かすことが出来なくなる:



影の使従、これが俺の能力か!

我ながら中々応用のきくいい能力だと思った。


ようやく復讐が果たせる・・・

吸血鬼の奴らを、殺せる・・・!


「ふ、ふふ。」


知らぬ間に口から笑い声が漏れ出ていた

体の疼きが収まらない。

早く街に出かけよう。


俺は足早に公園を立ち去った。


「あっ、待ってよ陸人くん!」


「はぁ、こんな状態でほんとにゲームをクリアすることが出来るんでしょうか。」


こうして俺達は公園を後にした。


俺は人通りの多い道をひたすら歩き続けた。

こういう餌の多い所に吸血鬼の奴らも現れるとふんだんだが、見当違いだったかな?


俺の街は今も開発の真っ只中で工事中のビルがたくさんある

案外そういう所に隠れているのかもしれないな


俺がそんな事を考えながら早足で歩いている後ろを桃子がついてくる

歩幅が違うからかついてくるので精一杯そうだ。

別に俺のことなんてほっとけばいいのに・・・


「ねぇねぇ陸人くん。

 さっきは言いそびれたけど私のこと助けてくれてほんとにありがとう。

 自分の命を危険に晒してまで助けに来てくれて、ほんとにほんとに嬉しかったんだよ。

 それと・・・」


あぁ、そういえば俺は命がけでこいつを助けたんだったな

まぁ結局そのせいで俺の母さんは死んだわけだが。


ていうかなんで俺はこいつを助けに行ったんだろう。

なにか考えがあったんだろうが思い出せない。

もっと言ってしまえば俺は今までどんな感情で生きてきたのかすら思い出せない。

俺は翔や桃子をそんなに大切に思っていたのか?


正直に言うと今の俺はあいつらを囮にすることになんの躊躇いも感じない。

今の俺の心にあるのは強い恨みと復讐心だけだ。


・・・はは、もう俺の心は麻痺してきてるのかもしれないな。

とりあえず今俺がすべきことは吸血鬼共を殺してこの胸にかかった靄を晴らすことだな。


「おい、桃子」


俺が呼ぶと桃子は目を輝かせてこちらを見てきた


「なに?!陸人くん。」


「いいか、お前を助けに行ったことについては俺が勝手にやったことだし感謝なんてしなくてもいい。

 借しなんて作りたくもないしな。

 俺の勝手な正義感でお前を助けようとしただけだ。

 分かったら俺のことはもうほっといてくれ。」

「え・・・で、でも!」


俺は冷たい口調で言う


「いつまでもそんなノリでいられても邪魔なんだよ。

 俺は今から殺し合いをするんだ、分かったらもうついてこないでくれ。」


俺がそう言うと桃子は下を向いてその場に立ち止まってしまった


これでいいんだ、俺の復讐に甘い感情なんていらない。

桃子がいると何故か俺の中にある黒い感情が薄まってしまう。

俺の中にあるこの感情は奴らに復讐すると決めた俺の誓いのしるしだ。


そう自分に言い聞かせながら歩いていると遠くで悲鳴が聞こえてきた


きたか・・・?!

逃げられる前に行かないと!


俺は悲鳴の聞こえた方へ急いで向かった


こいつが俺の復讐の第一歩

今日、この瞬間で俺の止まっていた時間は動き出すんだ!


俺が現場に着くと既にそこは逃げ惑う人々でパニックになっていた。

俺は人ごみを掻き分け他の人達が逃げる方向と逆に向かう。


さぁ、姿をみせろ吸血鬼!

今から俺がお前を・・・


「・・・え?」


俺はあまりの出来事に一瞬思考を停止してしまった


「おやおや、君はあの時の少年じゃないか。

 あれから一週間だが元気にしてたかな?」


「お前は・・・!」


そこにいたのは会うのはまだまだ先だと思っていた


俺の母さんを殺した吸血鬼だった。

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