第七話 すれ違う三人

やった……!

この一週間どん詰まりだった俺の復讐にやっと光明が見えてきた!

吸血鬼ども、束の間の幸せを噛み締めていろ……

今すぐ俺がお前らを殺しに行ってやるから……!


「あの……大丈夫ですか?」


ヒサメが怪訝な顔をして聞いてきた。

俺は我に帰りヒサメに質問をする


「いや、なんでもない。

 それよりお前がナビとして来たってことはお前がストーリーとかシステムの説明をしてくれるのか?」


「ええ、その通りです。

 あなたは後ろの二人より理解が早いようですね。」


後ろの二人より?


俺が振り返ると桃子は相変わらずモジモジしている。

翔は、下を向いて震えているようだった。


「おいおいお前ら、今から吸血鬼たちと殺し合いをするっていうのにそんなんで大丈夫なのか?」


「わ、私は陸人くんについてくから大丈夫だよ!」


桃子が照れながらも声を張ってそう言った。

未だにモジモジしている所が少し頼りないがまぁいいか。

それより問題は


「おい翔、なんとか言ったらどうなんだ」

「……だよ」


翔が小さな声で呟いた。


「は?今なんて言っ」

「だから!俺には無理だって言ってるんだよ!!」


俺の声を翔が声を荒げて遮った

だが俺はそれには動じずに冷静に翔へ問いかける。


「……お前はこのままやられたままでいいって言うのか?」


「無理なんだ、俺は怖いんだよ!

 この一週間また奴らが来るんじゃないかと思って家から出ることも出来なかったんだ!

 夜だって怖くて中々寝付けないし、寝たって夢に出てきて俺の大切なものをあいつらは壊してくんだ!

 もう俺は……耐えられない……!」


「翔……」


こいつ、こんなにも使えない奴だったのか……


「俺はお前と一緒に吸血鬼と闘った時、俺の横にいつもいてくれるのはお前だけだと本当に思ったんだけどな。

 それなのにお前は俺の期待を裏切るっていうのか?」


「陸人にそんな風に思ってもらえたことは嬉しいよ。

 それでも、ダメなんだ。

 もしお前がこれから吸血鬼と戦う道を選ぶってんなら俺はお前の横にいることはできない。」


俺と翔は向き合って睨み合った。


「ほんとに、行くんだな」


「お前の母さんが殺されたに関しては俺も許せない。

 でも、俺にも守りたいものがあるんだ。

 それに俺だったら大切な人には……」


そこまで言って翔は口を閉じた。


「いや、なんでもない。

 お前等が生き残ることを信じてるよ、戦闘以外で手伝えることがあったらまた言ってくれ。

 ……じゃあな。」


そう言って翔は公園から立ち去っていった。


「翔くん!」


俺は腕を掴み桃子を引き止めた。


「放っとけ、元からあんな腰抜け仲間にいらねぇよ」

「え、でも……」


俺は桃子の腕を掴んでいる手に力を込めた。


「っ……!

 だ、大丈夫だよ陸人くん。私は陸人くんについてくって決めたから。」


俺達の話が終わったのを見てヒサメは話し始めた。


「……いきなり険悪なムードですね。

 あなた方は仲が良いと情報に書いてあったのですが。

 まぁいいでしょう、それでは説明をしますね。」


それから俺達はこのゲームの説明を聞いた。

色々疑問は残ったがざっくり言ってしまえば


吸血鬼達のボスを倒せばGAME CLEAR。

味方側の全滅、それかこの街にいる俺達を除いた人間を全滅、または支配されるとGAME OVERとなるらしい。


支配っていうのは具体的に言うと吸血鬼と同じ思想を持つことらしいがそんなことにはならないだろうし俺達はこの街の人間が殺されすぎないように守ればいいってところだな。


次に重要なのが味方の定義だ。

この街で俺達はプレイヤー、そして俺達以外の人間はNPCって感じの扱いになるらしい。

そのNPCがたまに仲間に入りたそうな目で見てくる時があって俺達がそれを認めるとそのNPCは味方になってプレイヤーの扱いに変わるようだ。

一回プレイヤーになったらもうNPCには戻れないらしい。


そんな説明を聞きながら俺は一つの疑問を抱いた。

それは吸血鬼が増え続けたらどうすればいいんだという疑問だ。

どっかのゾンビ映画みたいに吸血鬼になった人間が人間を襲って……みたいな感じで増え続けたらクリアすることなんてほとんど不可能だろう。

そんな俺の疑問についてもヒサメが説明してくれた。


それはまず吸血鬼化した人間は別の人間を吸血鬼化させる事は出来ないということだ。


これには理由があった。


吸血鬼化という現象は吸血鬼が人間に自分の血を注入し起こる。

吸血鬼の血は人のそれと違って濃度が恐ろしく濃い。

それで吸血鬼の血を注入された人間は全ての血が吸血鬼の血に染まり吸血鬼となる……みたいな設定だそうだ。

血って漢字何回出るんだよって事に関しては許してくれ。

俺も思った。


だがそれはあくまで人間の血がさらに濃い血で上書きされたに過ぎないから吸血鬼の血の濃度には遠く及ばない、だから吸血鬼化させることも出来ない……そんな設定だそうだ。


あといちいち吸血鬼化した人間っていうの面倒だからこれから吸血鬼化した人間のことはにわかって呼ぶことにする。


にわかは人間の頃の記憶を無くすと言われていたが生前の本能的なのは残るし稀に記憶を残っているのもいるそうだ。

それでも吸血鬼の思想に取り憑かれるらしいが……


最後に吸血鬼もそんなに大量の人間を吸血鬼化させることは出来ないらしい。

まぁあいつらの食料は人間の血なんだし逆に吸血鬼が人間の血に染まってしまうかもしれないしな。


「大体こんなもんか?」


「はい、そうですね。更に言うとにわか……でしたっけ、にわかは血の濃度が薄いので吸血鬼の翼も生えていません。

 そして今この街にいる吸血鬼はにわかを除いて4人くらいですね。」


なるほどな、あと最後に肝心なのは……


「そして今から話すのが最も重要な吸血鬼に対抗する手段についてです。」


きた……!

この手段とやらがゲームの行方の鍵を握っている事は言うまでもない。

俺は一言一句聞き逃さぬように耳を傾けた。


「皆さんが吸血鬼に対抗する方法は主に二つあります。

 一つは皆さんに渡す異能力です、時間差はありますがじきに届くかと。

 異能力を手に入れたプレイヤーは身体能力も上がりますので期待をしておいてください。

 まぁ吸血鬼にも異能力は授けられるのでその辺りは注意してくださいね。」


……なるほど

敵も能力を手に入れるって言うのは中々に厄介だがこれで大分差は縮まったな。


「そしてもう一つはプレイヤーのみに与えられる権利のようなものです。

 しかしこの権利を行使して負けてしまうと問答無用でGAMEOVERになりますので使い時はよく考えてください。」


一回負けたらそのままGAMEOVERってのは確かに怖いな。


「それはどんな権利なんだ?」


「これは圧倒的な能力差などがあったときに使うと有効です。

 また不利になったときに使ってもいいかもしれないですね。

 その権利というのは……」


俺は食い入るように話を聞いた


「悪魔を呼び出しその悪魔が決めたルール上で戦うというものです。

 この悪魔が決めたルールには何者も逆らうことが出来ません。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る