第一章 ~英雄への軌跡~

第六話 GAME START

あの事件から3週間がたった


俺はあの後気を失いそのまま病院に運ばれて少しの間入院をしていたらしい。

今は退院して自宅療養をしている。


入院していた時や退院した後も見舞いに来てくれた奴らが何人かいたがそんなことは正直どうでもよかった


ショックで思考が止まっていた、なんてわけでは無い


人の声がしなくなった家で俺は1人でテレビのニュースを見続けていた。

パソコンで吸血鬼に関する情報をかき集めていた。


殺したい……


大切な人を失って心が空っぽになるなんて小説とかでよく見るけど、俺はそんな事はなかった


むしろ逆だ、ドス黒い感情で胸が張り裂けそうになっている。

見える景色も暗く淀んでいる気がする。


早く奴らを殺したい……!


そんな事を考える自分を俺は必死で抑える。

今俺が吸血鬼に挑んでも返り討ちにされるだけだろう。

あの事件で俺は自分の非力さを悟った、非力さを憎んだ。


何か力を、策を手に入れないと……

そんな事を考えながら時間だけが過ぎていった



そして事件から3週間がたった今日、俺は知らぬ間に翔にメッセージを送っていた


「今からいつもの公園に来てくれ。」


自分でもなぜこんな文章を送ったのかはよく分からない。

ただこの文章には従わないといけない気がして、俺は公園へと足を運んだ。




「あ、陸人……」


公園に行くとそこには少しやつれた翔がいた。

翔は見舞いにこなかったから会うのは3週間ぶりだ。

まぁ翔自身、俺の母さんと昔から仲が良かったし精神的にもまいってるんだろう。


ていうか誰でも目の前で親を殺してる姿なんて見せられたらトラウマにもなる。

しかも翔にとっては昔からの幼馴染とその親だ。


……まぁ、今の俺ならそんな事で動じたりはしないと思うが。


すると翔の背後から声が聞こえてきた


「陸人くん……!」

「その声は……桃子?」


翔の背中に隠れていた桃子が恥ずかしそうに出てきた


「なんで桃子がここにいるんだ?翔が呼んだのか?」


「いや、別に呼んでないし俺が来た時にはもう公園にいたんだよ」


……?

じゃあなんで桃子はここにいるんだ?


「あのね、信じてもらえないかもしれないんだけどなんとなく公園に行かなきゃって思ったの。

そしたら翔くんが来て今から陸人くんも来るって言うから……その……

私ずっと陸人くんにお礼を言わなきゃって思ってたんだけど中々お見舞いとか行きづらくて……」


桃子が頬を赤らめ下を向きながらもじもじと喋っている。

ていうかどういう事だ?俺達がなんとなくでここに集まるなんてあり得るのか?


しかもこの三人は全員あの事件の関係者だ。

なんだか嫌な予感がする……


俺が嫌な想像をしていると


「やっと集まってくれましたね

ようこそ、Hello・Inhumanityへ」


一人の女の声がそこからか聞こえてきた。

俺達三人が視線を向けた先には1人の女が立っていた


「……誰だお前は?」


「そうですね、紹介が遅れました。私は九條ヒサメ

このゲームにおいてのあなた方のナビとして参上しました。」


ゲーム? ナビ? 

何を言ってるんだこいつは


「この街がゲームになった事は知っていますね?テレビなどを通じて皆様にお知らせしたはずです」


そういえばそんな話もあった気がしたがすっかり忘れていた。

吸血鬼がゲームの影響で生まれたなんてことを覚えてる奴も少ないんじゃないかと思う。


「それがどうしたっていうんだ?」


「実は今まではゲームの世界になったというだけでゲームが始まってはいたわけではなかったのです。」


確かに今までを振り返ってみてもゲームらしさなんてなかったな。

敵は吸血鬼として味方はいないしストーリーってやつもない。


「なんで始まってなかったんだよ?」


「それはこのゲームの主人公になる者がまだこの街にいなかったからです。

そして主人公が現れたのでゲームは始まり、あなた方に集まってもらいました。

あなた方は今日ここに無意識で集まりましたよね。

 その事について不思議に思いませんでしたか?」


「あぁ、確かに俺は知らない間に翔に公園に来てくれって送ってたな。

 それもお前らの仕業だって言うのか?」


「その通りです。

 この街がゲームの世界になった以上強制イベントなどがあった場合皆さんは知らぬ間にそれに従ってしまうのです。

 今回は皆さんが公園に集まるという強制イベントだったようですね。」


なるほどな、信じられないような話だがこの街がゲームの世界である限りゲームによる強制イベントなんかには逆らえないって事か。

だがそれでも分からない所があるな。


「主人公が現れた事と俺達が集まった事になんの関係が?」


吸血鬼共を早く殺したい、だが俺にはそんな力も無い、知恵も無い

俺なんかじゃ役不足なんじゃないかと何度も思ったがそれでも諦めなかった、諦めきれなかった


「それは単純な話です。」


探しても探しても見つからなかった吸血鬼に対抗するための兆し

それがやっと


「陸人さん、貴方がHello・Inhumanityの主人公に選ばれました。

ゲームクリアはこの街の吸血鬼の殲滅です。頑張ってくださいね。」


俺は口元を歪ませ呟いた。


「見つかったぁ……」




このゲームの恐ろしさなんてちっとも想像せずに……。

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