第五話 Hello・Inhumanity

「え?」


俺と翔の笑顔が引きつった。

今俺は吸血鬼をグラウンドへ落として。

そのグラウンドから母の声がして。


「陸人ー!いるのー?!キャッ!だ、大丈夫ですか?!」


俺は急いでグラウンドをのぞき込んだ。するとそこには落ちてきた吸血鬼に駆け寄っていく母の姿があった。


「母さんダメだ!そいつが吸血鬼なんだ!」

「陸人!無事だったのね!」


その瞬間母の腕を吸血鬼が掴んだ


「え?そんな……まさか貴方が吸血鬼……」


恐らく教師の保護者への連絡が遅れて母が心配して学校へ来たのだろう。せっかく桃子ちゃんを助けて翔と一緒に生き延びることができたのに、なんでこんな……!

すると吸血鬼が母の首に顔を近づけていく


「やめろーー!!!」

俺は涙をこぼしながら叫んだ。


「陸、人……」


吸血鬼は母の首に、噛み付いた。母の体が痙攣する、俺はその光景を見ている事しかできない。

そしてしばらくして吸血鬼は満足したのかそれとも疲れたのか飛び去って行ってしまった。


俺と翔はグラウンドへと駆け下りた。するとそこには倒れて立ち上がることのできない母がいた。


吸血鬼化する時人は体が思うように動かなくなりしばらく時間が経つと吸血鬼になるらしい。痙攣が始まるともう止める術はなく殺すしかその人を救うことは出来ない。そして吸血鬼になった人は記憶を失い、吸血鬼として新たな人生を始めるそうだ。


それが今目の前で起こっている。

「母さん!母さん!なんで、来たんだよっ……!」


翔は呆然と立ち尽くしている。

「陸人が、無事で、よかった……」


「母さんにまだ恩返しもしてないのに、なんでこんな……!」


「いいのよ、陸人と過ごしてた毎日が、私にとっての幸せだったわ」


俺は泣き叫び続けた。母と過ごしてきた記憶が頭を駆け巡る。


「ねぇ陸人、1つだけお願いがあるの」


「な、なに?!何でも言って!」


「私をね……」


分かっていた、そうしなくてはいけないと分かっていたが俺はそれを考えないようにしていた。

だってそんなのは……あまりにも残酷すぎるから。


「殺して欲しいの。」


俺の涙が引っ込んだ。突き付けられた現実に思考が吹っ飛んだ。


「このまま吸血鬼になって陸人を襲いたくない…だから死ぬなら人間のまま死にたいの」


「でも……!そんな事出来ないよ!」

俺は母と目を合わさずに叫ぶ。


「今日は私の誕生日でしょ、これを私からのお願いにして」


「でも……!そんな!そんな……!」


我に帰った翔が焦って言う。

「お、おい陸人!殺しちゃダメだ!まだ治す方法があるかもしれないんだし!」



だがその言葉を聞いて俺は理解した。


母をもう救う事は出来ない。

このまま吸血鬼になった母に殺されるのもいいと思っていたが、ここには翔も桃子ちゃんもいる。


「母さんにそんなことは、させられないな。」


「え? 今なんて言ったんだ?」


俺は母の首を思い切り掴んだ。


「おい陸人!やめろって!」

「ダメだ!俺はもう決めたんだ!母さんを……人間のまま殺すって!」


「だけど……」


「お前ももう助からないって、こうするのが一番って分かってるからさっきから言うだけで俺を止めないんだろ?!」


「う……」


俺が手に力を込めると母が俺の頬に手を当ててきた。


「ごめんね、陸人にこんな辛い事をさせて……私は悪い親だね……」


「そんなことない!母さんは普段は意地悪だけどホントは優しくて……!俺の事をいつも1番に考えてくれてて……!」


手に力を込める。

母さんが早く死ねるように、母さんのために。


「私は陸人が子供でいてくれてホントに幸せだったよ……私の子に生まれてきてくれてありがとう」


「うぅ……」


歯を食いしばる。少しでも気を抜いたら手を離してしまいそうな自分を殺す。

母を救うために、母を殺す。


「母さん……死なないで……。」


思わず口から出てしまった。体育館を出た時から俺はもう戻ることができない選択をしている。全ては、自業自得だ……


「うっ、がっ……」

母さんの口から唾液が溢れ出す。目も赤くなってきている。


後戻りはできない。

母さんを、殺す。

俺は全身全霊の力で母の首を絞めた。


「さよなら、母さん」


「陸人、生きて……」


母さんはそのまま死んでいった。

俺は自分が何をしたかまだよく理解できていなかった、涙も流れていない。


そう、仕方なかったんだ!だってそうでもしないと皆が!


……


その時母のポケットが膨らんでいる事に気がついた。

取り出してみるとそれは誕生日にプリントアウトしてほしいと言っていたカメラだった。

一体何を撮っていたのか、カメラのデータをつけてみると



そこにはたくさんの俺が写っていた。

寝ている時の顔や体育祭で1位をとった時の姿など俺の写真で埋め尽くされていた。


すると、涙が溢れてきた。


母が俺をどれ程愛してくれていたのか、そして俺がその母を殺したという事を思い出してしまった。

もう母はこの世にいない。

母と言い合うことももうできない


俺が、殺したから……


脳が焼けていく感覚がする。

何を失ったか理解してしまった、誰が殺したか理解してしまった。

どうしようもない悲しみが全身を走る。


俺は泣き叫び、泣き叫び

喉が枯れ涙も枯れた時、


1つの決心をした。




母さんを吸血鬼にした奴らを必ず殺してやる……!






ー主人公の出現を感知、ただいまよりゲームを開始する。ー

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