さいごに なにか質問はありますか?

 「閣下!?なぜこちらに!?それにツユも!?」


 タイダの目の前に現れた社長から紹介された人物、それは異世界、「ガーデン」でよく見かけた王様まさにその人だった。

 十中八九王様は横にいるツユが連れて来た事は分かりきっているが、それでも「何故?」とタイダは聞かずには居られなかった。


 「タイダ君、今の私は閣下などではない!!」

 「はい?」

 「オオカブヌシ=サンじゃ!」

 (あ、これあかん方の奴や)


 あかん方の王様…もといオオカブヌシ=サンの言い分を聞いてみると、どうやらタイダの助言通り、政府の外交の前にこちらの文化を教えてもらう事をタイダの受けているこの会社に持ちかけたらしい。

 こちらで扱っても問題ないレベルのマジックアイテムの取引とこちらの一般的なレベルでの技術提供。

 異世界同士のファーストコンタクトとしては確かに穏当な物だが…


 「勿論、タイダを間に挟むことありきの話じゃ!」

 「いやぁ…タイダ君。君はどうやら素晴らしいコネクションを持ってる様じゃないか!新卒より当然初任給は上げさせてもらうよ!」

 「タイダよ!お主の面接先、待遇をよくしといたぞよ!」

 「余計なお世話だよ!!」


 言うなれば就職(予定)先に親戚のおっさんが茶々を入れ始めたといったようなシチュエーションにタイダは突っ込みを入れずにはいられなかった。

 しかし、タイダの動揺など知ったことではないといわんばかりに社長は話を続けていく。


 「まぁ、マジックアイテムは色々彼から聞いているよ。流石にポーションは効果が高すぎるから聖水や屑魔石辺りから扱ってみようか?」

 「聖水と屑魔石と言うと…」

 「この間お主に管理を任せた所じゃな」

 「…あん時からか!」

 「そして、向こうで貴族としても暮らさんといかんのじゃから…」


 「私達と親戚になれるという事ですわ!」

 「そうですわ、タイダ様!私と誓いの口付けを!」

 「おお!タイダよ!戦友よ!そして未来の兄弟よ!」


 「皆!?テンション高すぎないか!?」


 唐突に出てきた三人につい、反射的に突っ込んでいたタイダだが、ひとつ思い出した。ロリィである。

 この国では犯罪的…いや、最早犯罪な年齢の幼女に婚姻を申し込まれているこの状況は社長的には…


 「「ガーデン」の法律ならOKじゃ!」

 「タイダ君、向こうに単身赴任だね!」

 「倫理観もありゃしねぇ!?」


 親指を人差し指と中指の間に挟みこんだゲスい合図を社長はタイダに送るとタイダは退路がふさがれてる事に気がついた。

 すがりつくようにタイダはツユに目を合わせた。しかし、ツユはタイダの肩を叩くと


 「こっちの法規は調べました!戸籍も偽造しましたし、私はこっちでの婚姻で大丈夫です!」

 「神は死んだ!?」


 こうして、無事(?)内定という勝利を勝ち取ることが出来たタイダ。

 そして、人生の墓場へとダンクシュート…もといレースにゴールすることが出来たタイダ。

 タイダはこれから、表向きは雑貨屋の店長として、そして日本と異世界、「ガーデン」をつなぐチューターとして働く事となった。


 来る異世界の存在の公布に向けて忙しい日々を送る事だろう。


 「という訳でよろしく頼むのじゃ」

 「…はぁ、分かりました王様。こちらのことは色々とお任せください」


 「ガーデンでは私が!」

 「タイダの世界では私が支えますよ!」

 「…はぁ、ツユ、ロリィ。二人はいいのか?」

 「「はい!」」


 今は仲の良く見える二人を見ながらまぁ、なんとかなるのかな…と今後の苦労を予見しながらタイダは空を仰ぎ見る。


 「あれ、俺の就活ってうまくいった…のか?」


 タイダは、誰にも聞かれる事なく天に自身の疑問を質問した。

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異世界で勇者やってた俺の就活 act.yuusuke @act_yuusuke

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