Q8 今までの職歴・経歴を教えてください

 「いや、流石は勇者様だ!」

 「そうだな、今まで揉めていたのが馬鹿らしく成るほどの鮮やかな解決だった!」

 「…そりゃどーも」


 資料を読み、現地に向かい、少しの問答をした後、タイダは水利権に関する裁定をあっさりと決めたのだった。

 といっても、インフラ整備の方向性、上下水道の完備を魔法を使いつつ現代のシステムのように落とし込んだだけのタイダにとっては簡単なものだった。

 水道局などで行われている見学会程度の知識で絶賛されているタイダは少し居心地が悪かった。


 「さて、戻るとするか」

 「あ、待ってください!勇者様!」


 軽い用事を済ませたように帰ろうとするタイダへ待ったがかけられる。

 どうやら町人たちが感謝の気持ちを示したい様子だ。


 「これ…貰っていただけますでしょうか…?」

 「…へぇこれは…」


 タイダが町娘の一人から受け取ったもの、それはこの町の特産品である水晶で作られたネックレスだった。

 この世界での鉱物は魔力が蓄えられており、その石ごとに効果が分かれていたりする。


 水晶の場合は所謂、浄化という効果を持っている。

 そのままズバリさまざまなものを浄化する効果なのだが、特に水の場合、浄化を行う事によって聖水に変化する。

 聖水はポーションなどの材料にもなる必須の素材で、用はこの場所の水利権というのは聖水に纏わるものの話なのであった。


 「綺麗だなこれ。…貰ってもいいのか?」

 「はい、こちらは既に魔力を使い切ったもので作りましたので。それに勇者様は付与もなさるとお聞きしております。」

「まぁ、そうだが…」


 こんなことで、手の凝った細工が施されているアクセサリーをもらっていいものかとタイダは言外に匂わせた。

 しかし、町人曰く

 「魔王が討伐されたお陰でこういうものも作れるようになったんだ!」

 と言った気持ちが強いようで、タイダもその純粋な好意からくる贈り物を断ることが出来なかった。

 この世界にとって、勇者とはまさにそう言うものだった。


 「…分かった、これは有り難く頂くとしよう。また困ったことがあったら言ってくれ。できる範囲で何とかしよう。」

 「その言葉だけでも有り難いです!」


 タイダは町人達に最大級の見送りを受けて帰ることとなった。


 「…こんなにちやほやさらるならもう此処に住んじゃっても…いやいや!ずっとこんな扱いされる訳なんか無い!究極の安定は良い、内定先から!」


 勝って兜の緒を締めよ。タイダはその言葉を自信に刻み付けながら帰路へと着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る