ⅩⅧ 生き続ける伝説(4)

「……ま、何はともあれ、その由緒正しきトゥルブ家に伝わるお宝を手に入れたのよ。ここは一つ、盛大にお祝いしなくちゃね」


 その沈黙を破り、最初に口を開いたのはマリアンヌだった。


「ああ、そうっすね! ちょいとばかし小金も入ったことだし、派手にパーとやりましょう! 換金はまだっすけどね」


 その言葉に、アルフレッドも諸手を上げて大賛成する。


「それじゃ、リッツのスィートルームでも取ってパーティーと行きましょう? 今回はフンパツして、あたしが部屋代持ってあげるわ」


「おい、ドケチの小娘泥棒にしちゃ、随分と気前いいじゃねえか。薄気味悪りいな。なんか企んでんじゃねえだろうな?」


 いつにない太っ腹なマリアンヌに、疑わしそうな眼を向けて刃神は言う。


「失礼ね! そんなこと言うと、あんただけお金取るわよ! せっかく、このあたしが気持ちよくお金出してあげるって言ってるのに…」


「まあまあ、お二人とも、こうしてお宝も無事、俺達のものになったんですから、今日のところはなにとぞ穏便に……」


 いつもの如く口論を始める二人に、部屋代を奢ってもらえなくなるとマズイと考えたアルフレッドが中に割って入った。


「フン! ま、あたしは分別のある大人の淑女レディだし、今日はお宝手に入れたお祝いの日だから特別赦してあげるわ……あ、そうだ。ウォーリー、良かったら、あなたも参加しない?」


 今日はお宝効果で本当に機嫌がいいのか、マリアンヌは口を尖らせながらも矛を収めると、思い付いたように店主も誘う。


「いや~お呼ばれしたいのは山々なんじゃがの、今夜はお得意のお客が来る約束があるんじゃよ。こう見えても、わしは真面目な商人なんでの。残念じゃが、ま、お前さん達だけで楽しんでくれ」


 しかし、カーネルサンダース人形のような店の主人は残念そうに肩を竦めて、盗品を扱ってる骨董屋とは思えないような台詞で丁重に断った。


「あら、そうなの? 残念だけど、それじゃ仕方ないわね……じゃ、あたし達もそろそろ行くわ」


「じゃあな、オヤジ。また近い内に寄らせてもらうぜ。あの円卓の騎士団の野郎どもが集めたアーサー王関連の武器がまだ他にもあるはずだからな。どっかに隠してあるのか、それとももう警察が押収しちまったのかわからねえが、そんな情報入ったら教えてくれ」


「あ、俺もなんかいい儲け話あったら連絡ください。ものすごく申し遅れましたが、詐欺師なんかをやってるアルフレッド・ターナーっていうケチな野郎です。ここにメールアドレス書いてありますんで。ああ、お茶、どうもご馳走さまでした」


 マリアンヌも残念な顔をして席を立つと、他の二人も店主に別れの挨拶を述べる。


 ちなみにアルフレッドはちゃっかりと、仕事用の名刺を渡していたりなんかもする。


「ああ、こりゃ、ご丁寧にどうも。ターナーさんね。憶えとくよ。サムライの兄さんも了解した。調べとくから、またちょくちょく顔だしとくれ。マリアンヌ嬢ちゃんもまたの」


「ええ。それじゃ、ウォーリー。また〝こっちに来た〟時に」


 挨拶を返す主人に見送られ、この奇妙な取り合わせの三人組は、宝をしまったバッグを大事そうに抱え、緑男の骨董店グリーンマンズ・アンティークを後にした。


 彼らが開けたドアが閉まると、カランカランとドアに付けられた鈴の音が心地良く店内に鳴り響いた――。

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