第2話 75センチメートル。
「ふぅー、今日もやっと終わったか。」
時刻は3時50分。この私立神ヶ崎学園の6時間目の終了を合図するチャイムが鳴る。クラスの端っこでただ寝てるやつもこのチャイムが鳴るとF1のピットインかのようにそそくさと帰り支度をする。かくいう俺もそいつらには引けをとらないほどのスピードで帰り支度をする。
「今からプリントを配布する。それを受け取ったやつから下校しろ。」
すこしいかつい俺のクラスの担任が全員に言い放つ。
俺は電車で通学しているため、下校が少しでも遅いととても腹が立つ。その点あの教師はことをすぐ済ませるため、都合が良い。部活動に忙しい奴らも同じことを思っているだろう。
俺はすぐさま教室を出て、靴箱に行き、自分のお気に入りのスニーカーを履く。かの有名な元NBA選手のスニーカーだ。その後すぐに校門を出て、学校を後にした。最寄りの駅までは大体5分で着く。時刻は4時ちょうど。余裕だ。
余裕があったので途中でコンビニにより、コーヒー牛乳を買った。正直、風呂上がりよりも学校帰りのほうが美味しいと思う。
そして駅の改札を抜け、俺が帰る方面のホームに着く。俺は辺りを少し見回した。
「あっ・・・」
いた、彼女だ。この話において、俺のライバルであり、第二の主人公。そしてこの話の二人しかいない出演者の一人だ。その名は
「・・・・・・」
彼女は俺の存在を確認し、すぐさま自分の世界に戻った。あれさえなければ、というよりかはあれがあっても俺的にはすごくタイプだった。
それから数分、電車が到着した。この駅には普通電車しか止まらず、中には俺と彼女を含めて6人しかいなかった。彼女と俺は降りる駅が一緒なので、乗る車両はいつも同じだ。
時刻は4時22分。俺と彼女は電車を降り、最近では珍しくなった無人駅を同じ階段から降りていく。俺は一軒家で彼女は俺の自宅の前の大きいマンションに住んでいた。なので帰り道は大体同じ。電車に乗っていた他の4人はこの駅につくまでに段々去っていった。なので今は二人きりだ。今の言い方は少し気持ち悪いが本当にそうなのだから仕方ない。
彼女は俺より前を歩いていた。まるで俺のことなど気にせず、ただ風を切りながら前に進んでいく。風になびく長くてきれいな黒髪、太すぎず細すぎずスラッとした美脚。美しい、ただ美しい。まだ15歳の俺にはあまりにも刺激的だった。あんなのいつ後ろから男に襲われてもおかしくはない。あぁ、だからあんなオーラを出し続けているのか、納得。
そうしてる間に自宅に着いた。時刻は4時27分。とりあえず今日来たシャツを洗濯機に脱ぎ捨て、祖母が作業するキッチンのカウンターに弁当箱を置く。すぐさま二階にある自室まで進む。
「今日もきれいだったなぁ・・・」
30分前から我慢していた言葉をやっと吐き出せた。正直な所、口を開ければすぐ出ていたと思う。けど俺は耐えに耐えた、偉い。
とりあえず風呂に入る。時刻は4時35分。風呂にはまだ早いって?いいやこれで良い。理由?そんなの適当さ。
そして風呂を上がった。俺はとても長湯する人間だから気づけばもう5時47分だった。さっと髪と身体を拭き、着替える。Tシャツに短パン。これが初夏にはベストだ。風呂上がりの一杯は常備しているペプシ。なんの変哲もない普通のペプシだ。これが一番うまい。
「ふぅ~・・・」
自室の椅子で一息つく。なんやかんやで一番落ち着くのはここだったりする。俺はすぐにPCの電源を入れ、立ち上がるまでスマホを覗いていた。どれだけネット見たいんだよ。
「えー、あいつ好きなのにあんな変なやつと付き合ってんのか。がっかりだわー。」
それはあるアメリカの「God's son」と呼ばれるラッパーのスキャンダルだった。相手はあの赤いTシャツの5才児にも負けないくらいの大きいお尻の持ち主だった。少なくとも俺はあいつのことが嫌いだ。
PCが立ち上がった。画面には尊敬するDJが映っている。とりあえずブラウザを起動させ、動画サイトを徘徊する。国内、海外何でもありだ。こう見えても英語の成績は常に最上位だ。将来は海外で仕事をしたいと思っている。
「護楽、ご飯~」
階段から声がした。祖母だ。3ヶ月前に祖父をなくした祖母にとって、ご飯の支度は唯一の生きがいだ。
「はいよ~」
そう返事した。
階段を降り、ソファに座る。ちょうど真ん中が俺の定位置だ。食卓には白米と揚げ物と漬物、サラダが広がる。量に関してはまぁ・・・多い。親父はいつも文句を言っている。確かにこの量はアラファーにはきつい。だが俺は祖母の唯一の生きがいを邪魔するわけにはいかず、いつも完食する。味は折り紙付きだ。
「ごちそうさま」
今日のデイリークエストは達成した。時刻は7時19分。すぐに自室に戻る。ここからは趣味の時間だ。作曲ってやつだ。
これは中2の春休みから続けている趣味だ。かれこれ一年くらいしている。初めたきっかけはPCの背景のDJ。こいつがまたとんでもなくかっこいい曲を作る。なんど人生を救われたことか。英語を頑張っている理由もあのDJに会ってお礼を言いたいからだ。とりあえず今から集中するからまたあとで会おう。
時刻は9時32分。2時間で作った曲は2曲。出来はそこそこといったところ。とりあえずこれですべてのデイリークエストが終わった。後は寝るだけだ。
「ふゎぁぁぁ・・・」
あくびでは必ず声が出てしまう。
俺は明日の準備を済ませ、ベッドに入った。すこしスマホ触って、自分からまぶたを閉じた。時刻は10時00分。
「ん・・・」
窓から差し込む光で目が覚めた。時刻は5時30分。うん、実に健康的だ。家を出るのは8時なので1時間半ほど勉強の時間だ。朝はすこぶる脳の調子がいいのでよく勉強が進む。
朝の支度を済ませ、家を出て電車に乗る。
「あ・・・」
察しの良い人なら気づいているだろう。そう、
学校の最寄り駅についた。俺とは逆方面のホームでは俺の学園の生徒で溢れていた。何故こんなにも差があるのだろうか。俺がそんな疑問を抱いている間に彼女は黙々と学園に向かって歩きはじめていた。そんな姿もまた美しい。
学園に着いた。時刻は8時22分。部活の朝練も終わりみんな教室に向かう頃である。彼女も同じ時刻に着いていた。
教室に入ってからは席が近くのクラスメイトに挨拶したり、しょうもない雑談をした。親友はいなが意外と交友関係は広い。
とりあえず授業に集中するからまたあとで会おう。
時刻は3時50分。また昨日と同じ感じ。いつも通りだ。
そして駅についた。また彼女がいる。いつも通りだ。けど一つだけ違うことがあった。朝はしていなかったのにマスクをしている。しかも顔も少し赤い。何かあったのだろうか。
いつも通り電車は到着し、乗客もいつも通り少なかった。彼女もいつも通り同じ車両に乗った。
4時22分。いつもの無人駅に着いた。やっぱり乗客は彼女と俺だけ。いつも通り彼女は俺の前を歩いていた。しかし1つ違うことがあった。それはすこし彼女の足取りがおぼつかないことだった。しばらくするとその足取りは止まり、段々と地面から離れていった。
バタッ・・・。
少し重みのある音がした。そこには倒れて息を荒げている彼女がいた。
その時既に俺は行動していた。
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