2章 少女の行動

 さて、観察日誌と銘打めいうってる以上、次に記さなければならないのは目の前の観察対象の行動についてだ。

 が、残念ながら俺が気づいてから今までの間、目の前の少女には目立った動きが見られない。


 いて言うなら髪の毛先や服のすそをいじる程度。

 ……どうやら暇を持て余しているのは自分だけではないようだな。

 だがこれは困った。暇をつぶすために始めた観察なのにこれでは全く面白みがない。


 ……いやまぁ勝手に観察を初めておいて、つまらないなどと言うのも失礼な話だが。

 そう思った時――願いが通じたのか――突然少女に動きが現れる。


 少女は唐突とうとつに伸びをすると、ひとつ頷き、ゆっくりとその小さな足を動かし歩き出す。

 それと同時に、少女を照らすように見えていた世界と自分も、少女を追うように勝手に動く。

 

 なるほど、これは……本当に俺は目の前の少女しか見えない様になっているのだな……。

 だがまぁ、これでようやく観察のしがいが出てきた。

 と、思った矢先、少女はほんの数歩でその動きを止めてしまう。


 すると、その場にしゃがみこみ、俺に見えている光の外側、何も見えない暗闇へと手を伸ばす。

 一体何を?

 その疑問の答えは、立ち上がった少女の手元を見ることで解決した。


 少女の手にあるのは、

 なるほど、俺には見えない場所にそれが置いてあったのか。

 納得する俺の目の前で、少女は足を伸ばし座り込み本を開く。


 すると、手に持つペンで本に何かを書き込み始める。

 一体何を書いているのか、気にはなるが、少女の体に隠れてしまっているため内容までは見て取れない。


 時折ときおり、何か考え込むかのような仕草しぐさをみせつつも、一心不乱に何かを書き続ける少女。

 するとほどなくして、少女がその手を止める。

 

 自分の書いたものに納得がいったのか、ひとつ頷き本を閉じる。

 そしてペンと共にそれを傍らに置くと、また俺には見えない場所に手を伸ばし始める。

 

 今度は何を取り出すのだろう?

 そう思う俺の目に入ったのは、可愛らしい一匹のくまのぬいぐるみと、それをいとおしそうに抱きしめる少女の姿。

 

 どこかいやされるその姿から見るに、やはり目の前の少女はとても幼いのだろう。

 そう思った矢先、目の前の少女がぬいぐるみを抱えたままゆっくりと横になる。

 

 そして、それと同時に今まで変わらず少女を照らしていた光が、ゆっくりと狭まっていく。

 なんだ?

 そう疑問に思う間もなく、俺の思考は、光が完全に無くなると同時に停止する。

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