1章 観察対象

 さて。

 観察を始めるにあたってまず記すべきは、観察対象の身体的特徴だろう。

 とは言っても今のところ目の前の少女が振り返ることは無いため、残念ながら彼女の顔つきについては知ることができない。


 観察対象が女性である以上――それが例え少女だとしても――顔は重要な部分だとは思うのだが……。

 まぁいい、とりあえずは今見える少女の後ろ姿のみ明記しようと思う。


 まず恐らくだが、この目の前の少女はとても小柄だと思われる。恐らく、と前置きしたのは、今の俺の視界には他に大きさを比較するものがないからだ。

 だがそれでも、自分自身の視線の位置から大まかな推測はできる。


 ではまず、俺自身の身長を大体170cmとしよう。そこに加えて、自分が浮いている高さを10cmから20cmと仮定する。

 それらを差し引いて考えれば……彼女の大まかな身長はおよそ150cm代といったところか。


 成人した女性よりも幾分いくぶんか低いその身長。目の前にいる後ろ姿のみの女性を初めて見たとき、直感的に少女と形容した理由はそこであろう。

 ……いや、それだけではないな。


 冷静になって観察してみれば、目の前の少女を、少女と認識するだけの理由は他にもいくつかある。

 まずは着ている服装。


 少女が来ているのは白いノースリーブタイプのワンピース。所々にフリルのあしらわれているそれが、目の前の少女の幼さを際立たせていた。

 また、ワンピースからのびる白くシワ一つない手足も、自分の直感を正しいと裏付けている。


 これらから見るに年の頃は十代、はたまたそれすら届かないかといったところか。

 ただひとつだけ俺の考えと一致しないのは、腰まで伸びた長く金色に輝く髪の毛。

 それだけが目の前の少女の雰囲気を大人びたものに変えている。


 さて、それでは目の前の少女について、ここまで得た情報をまとめてみよう。

 まず身長は150cmほど、年齢は恐らく十代で長い金髪に白いフリルのあしらわれたワンピースを着ている。


 そして、俺はその少女に取り憑き、その行動を逐一ちくいち観察している、恐らく成人した男性。

 ………………ふむ。


 さて、ここまでの観察を経て、どうしても記しておかなければならないことがある。


 俺はロリコンでは無いし、ストーカーでもない……はずだ。

 …………まぁしるす手段もなければ、伝えるべき相手もいないわけだが……とりあえず。

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