第4話 「わたし」(4)


 一か月前、わたしは親友の愛莉にある悩みを打ち明けた。一年生の時から思いを寄せている先輩が遠くの大学に行くと聞いて、告白すべきかどうか悩んでいたのだ。


 愛莉のアドバイスは、わたしたちが所属するチア部の大会が終わってからにしてはどうかというものだった。二週間後、大会が終わり、わたしはすっきりした気分で告白の言葉を考え始めた。愛莉があることをわたしに告げたのは、大会後の打ち上げの最中だった。


 ――ごめん、私ね、雄介先輩に告白されて、付き合うことになったんだ。


 雄介先輩とは、わたしが片思いし続けている相手の名だった。


 突然の思いがけない告白に、わたしは強張った表情のまま「仕方ないね、頑張って」と返すしかなかった。大会が終わるまでの間に、愛莉が何かと理由をつけては雄介先輩に近づいていたという話を聞いたのは、だいぶ後になってからだった。


 してやられたという思いがこみ上げたものの、わたしは愛莉との絶交には踏み切らなかった。愛莉と決別すれば先輩とも気まずくなり、会う機会が減るに違いなかったからだ。


 わたしは煮えたぎるような思いを裡に秘めながら、目の前の定期考査に集中した。予想通り、わたしの結果はさんざんだった。不思議がる家族の顔を見ながら、わたしは最近、噂になっている山の中の社、通称「ほこら」に邪悪な願掛けをしに行くことを思いついたのだった。


 ――あんな恐ろしいことを願ったから、罰が当たったのだ。


 手錠で擦れ、みみず腫れになった両手首を見つめながら、わたしはぼんやりと思った。

 家族は心配してくれるだろうか。捜索願いは出されるのだろうか。隠し部屋のようなこの空間が、容易に見つけられるとは思えず、わたしは重いため息をついた。


 気力が残っているうちに、外に向けてSOSを発信しなければいけない。運よく逃げられた人がよく言う、「監禁が長くなると次第に脱出する気力が失せてくる」という状態に陥ってはいけない。わたしは疲労でろくに回らない頭で、必死に考えを巡らせた。


 一日も無駄にしてはいけない、そう思いつつも、疲れからかいつしかわたしは泥のような眠りへと引きずりこまれていった。


              〈第五回に続く〉

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