第196話 このタイミング

「桜雪ちゃん」

 出張先でスマホが鳴る。

 出ると『彼女さん』である。

 電話なんて珍しい…

「どうしたの?」

「うん、ヒマだった」

「そうなの…」

「うん」

「今ね、出張でね…うん、打ち合わせの最中なんだ」

「え~、出張とかあるんだ?」

「うん、前にも言ったよね」

「あのね、今日ね、エコー検査行ったの」

(人の話聞かないな…)

「そうなんだ…」

「うん、あのね今どこ?」

「山形」

「牛」

(なんだろう、変な事だけ知ってるんだよな…)

「そうだね、お昼は米沢牛だったよ」

「美味しかった?」

「うん、時間があればお土産買っていくから」

「あのね、最近、お菓子食べないからね…ハイチュウは歯の詰め物が取れるからね、でも仮詰めだからいいか」

(そういう考え方だから数年間、歯医者通っても治らないんじゃないかな)

「どうしようかな…牛?」

(まさかの牛肉を買ってこいとでも?)

「牛だと、お父さん喜ぶよね」

(肉屋に寄ってる時間は…)


 結局、打ち合わせは難航し…帰宅は深夜になったのだ。


 しかし…絶妙なタイミングで電話してくるな…


「お土産、買ってる時間は無かったよゴメンね」


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