第194話 読むものなんだよ。

「桜雪ちゃん、ツタヤ行きたい」

「いいけど、何か買うの?」

「Tシャツ」

「……」

「大きいの、ダボダボしたの欲しいの」

「……ツタヤにあるの?」

「わからない…でも、雑貨も売ってるよね」

「まぁ…うん」


 彼女さん、相変わらずである。

 結果だけ言うと…まぁ、あるっちゃぁある。

 結局、買わなかった。

「ドンキか~」

(別に買わんでもいいと思うけど…諦めないんだね)


「僕、本、見てくるよ」

「うん」


 買える間際に僕の目を引いた本があった。

 美術書とでも言うのだろうか…なんだかマニアックな匂いに惹かれた。

 手に取ってパラパラとめくって確認する。

(表紙はいいけど…中は大したことないな~)

「あ~…本の匂いがする~、この匂い好き」

 彼女さん、本の匂いを嗅いでいる。

「あぁ…そうなの…どんな本読むの?」

「本? 読まないよ」

(匂いが好きなだけなんだね…僕も好きだけど)


 本をパタンッと閉じて棚に戻した。

(そういえば…『通』も字を読まなかったな~)

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