第193話 だから味噌汁なんだよ

「味噌汁持ってきた、後で飲んで」

『彼女さん』食事に行くのに、なぜ持参してしまうのか…。


「あのさぁ、レンジで温っていいのかな~」

 自分で容れてきた容器がレンジ対応なのか、よく解らないようだ。

「10秒くらいで様子みてみたら?」

「うん…」

 チンッ

「飲んで」

 僕は、そのとき初めて容器を見たのだが

(保温だな…レンジに入れなくても良かったんじゃ…)


 飲んでみると…うん、冷たい。

 どうも冷めた状態で保温容器に入れたんじゃないかと思う。

「どう?」

「うん…冷たい…し」

「し?」

「うん…味噌を感じない」


 そう…とてつもなく薄いのだ。

「下に溜まってるんだよ、かき混ぜて」

「そうなの」

 なんだろう…具が大量過ぎて、液体部分の色が確認できない。

「あのさ、具が多いね」

「卵とネギしか入ってないよ」

(種類の話じゃねぇんだ…量の話なんだよ…)


 とりあえず冷たい卵とネギを食べる。

 具を取り除くと…

(白湯スープ?)

「あのさ、かき混ぜても味噌の色にならないよ」

 そう、かき混ぜても色は変わらない。

 透明度の高いスープである。

「コレ…味噌汁じゃないんじゃない? 卵スープなんじゃない?」


「……味噌…入れてないかも…出汁だけかもしれない」


(出汁…味噌汁に成りきれてなかったんだ…サナギみたいなもんか)


 冷えた出汁を一気に飲んで、それ以上は触れなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る