第151話 暑中お見舞い催促します

メールが届いた。

お盆の暑い朝。

『忘れてない?』

『お湯ラーメン』シリーズの『通』からであった。


続いて電話が鳴る。

「俺だけど、メール届いた?」

「うん、今見た…てか、朝早くない?」

「農家の朝は早いんだ!」

「お前、サラリーマンじゃん」

「兼業でしょ!」

「家事手伝いじゃん」


「いいんだ…でも忘れてない?俺、待ってたんだけど、昨日から」

「なにを?」

「暑中お見舞いの連絡」

「何もしてないよ、俺、昔から誰にも何もしない派」

「毎年、連絡してるじゃん」

「うん、お前から連絡くるからね」

「俺、今年、暑中お見舞いしてほしかったわけ」

「うん、読み取れない俺が悪いとは思わないけど…じゃあ申し上げようか?」

「いや…なんか自分から言っちゃうと、ちょっと変な感じになるじゃん」

「今さら感、否めないね」

「でも…うまいこと、暑中お見舞い言ってほしいんだ」

難しい注文を投げかけてきやがった。

俺はとんち小坊主じゃねぇ。

「ちょっと待ってるから…ね…頼むね」


プツッと電話が切れる。

さて朝から面倒くさいことになった。

少しだけ、歯磨きしながら考えた。

(うん。無理だ。)

まったく気の利いた答えは出なかった。


2時間すると、再び電話が鳴る。

「待ってるんだけど…」

「うん、暑中お見舞い申し上げるよ、身体に気を付けて、本家の長男として親戚を迎えて、先祖を迎えて、面白おかしく今日を過ごせよ」

「違うよ!バカ!お前が俺に気遣いし、俺もお前を気遣う、そういうものでしょ」

「いいよ…気遣わないから、気遣ってくれなくていいよ、ホント」

「お互いに、いい歳なんだから…大人の付き合いをしようぜ」

「いいよ…大丈夫だよ…俺」

「大丈夫ってなに?」

「うん…なんか…どうでもいい」

「バカ!とりあえず暑中お見舞いなんとかしろよ」

「今さらなんともなんねぇよ馬鹿!自分から催促して上手いことって何?答えドコ?迷宮入りだよ、IN LABYRINTHイン ラビリンスだクソ野郎!目覚めたのに、まだ悪夢の中みたいに気分が悪いんだよ」


私は一方的に電話を切った。


その夜……。

『暑中お見舞い申し上げます。今年もよろしく。』


冬なのか正月夏なのかお盆、理解の出来ないメールを受け取った。

どう返していいのか…再びIN LABYRINTH《イン ラビリンス》に迷い込んだ2015年の夏。


今年は何か催促してくるのであろうか……。

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