第145話 被害者面

 朝から『通』の電話…

 面倒くさいから出なかった。

「出先だからメールして…」

 すると

「退職後って何するか教えろ」

 なんだろう…意味が解らないうえに、なぜか腹が立つ。

「オマエ…パートかなんかだっけ?」

「派遣じゃない」

 うん…派遣だとは言ってない…

 面倒くさいから電話した。

「おう」

「オマエなに言ってるの?バカなの」

「いや…退職したんだわ」

「知ってる」

「で…どうするの?」

(オマエがどうするんだよ…)

「離職票持って職安行って、市役所行って…」

「離職票こねぇんだわ」

「なんで来ないんだよ? バイトだったの?」

「いや…なんだったんだろうな…」

(コイツ…自分がどういう立場で雇われていたのか知らないのか…)

「バイトなら…ないかも…条件しだいだけど…」

「いや来るよ、なんか職安行ったら会社に電話してくれて、なんかマイナンバー書き忘れたとかで遅れてるんだと」

「じゃあいいじゃん、待ってれば…」

「そうなの?」

「来てないなら、何も出来ないでしょ」

「そうか、待ってればいいのか…安心した」

「切るぞ」

「あのさ、今朝、股間が腫れて、急患に運ばれたの」

「まだ痛いとか言ってるの? 仮病だろ」

「違うんだよ、ホント痛いんだよまだ」

「診断書に仮病って書かれてるじゃん」

「痛いんだよ」

「じゃあ、医者変えろ!! ホントに痛いなら、蹴られたのは無関係に病気だから、医者変えろ」

「股間腫れてるの!!」

「じゃあ病気だろ!! 蹴られてから半年経って何で腫れるんだよ!! タイマーか!! バカ!!」

「関係ないのかな」

「あるわけねぇだろバカ!! いつまで被害者面してるんだよ、いいかげん逃げないで働け!!」

「もう、役所も会社も医者も信じられねぇんだよ、皆、俺に嘘ついてさ~」

「バカ!! オマエに皆が嘘ついて、何の得があるんだよバカ、オマエが蹴られたことなんか、もう誰も気にしてねェンだよ、オマエがグチグチいつまでもうるせぇだけなの!! 医者も呆れてんだよバカ!!」

「……俺…ホント…会社が嘘ついてさ、役所も相手してくれないし…グルなんだよ医者も農協絡みでさぁ…」

「オマエ…何ほど大物なの? 今度は何の陰謀に巻き込まれてるの? 現実見ろよ…クソなんだよ、俺もオマエも、今死んだって、誰も何とも思わないの、それが現実!!」

「悲しいこと言うなよ…死ぬなんて言わないでくれよ…」


「何の話だ!!」


 こんな感じで3時間…電話していたのである…これほど無駄な時間があるだろうか…

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