第142話 敗北を決めました?

「今日、敗北を決めました」

 うん…『通』からのメールである。

 午前中に届いていたことから察するに、早々に退職届けを提出したのだろう。

(4ヶ月もウダウダしていて…やっと動き出したと思ったら退職かよ…)

 そもそもパートで退職届が必要か否かは解らないのだが、まぁとりあえず決着したわけだ。


 派遣先から帰って、メールを返信した。

『敗北はしてないだろ。負けることが出来るのは戦ったヤツだけだ。オマエは戦いの土俵にすら上がってないのだから、負けることすらできなかった。逃げただけだ。戦って敗れること、逃げてしまうこと、結果として全てを失ったとしても、俺には、途方もないほどに大きな差を感じる。俺は会社を訴えて勝つことができた。自信はあったし、法律も過去の判例も調べたうえで挑んだのだから当然と言えば当然だったかもしれない。勝って何を得たかと言えば、多少の金くらいだったかもしれない、その戦いに意味はあるかと今も自問自答しているかもしれない。でも…俺がひとつだけ、自分は間違ってないと胸を張れるのは、勝ち負けではなく、数万人規模の従業員を抱える会社に向かっていけたことだけは、クソみたいな人生の中で後悔なく死んでいけると言い切れるからだと思っている。オマエは逃げるだけで何もせずに愚痴をこぼすだけの4ヶ月に本当に後悔してないか?』


 逃げたんだから…もう文句も愚痴も言うな、オマエにその権利はない。


『気が付けば春になったな…』

『通』の返信である。


 そりゃ、オマエは今冬、何もしなかったのだから気づけば春なんでしょうよ…。

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