第122話 バカだからね

「桜雪さん、久しぶりです」

 バイト先の若い女の子、シフトの関係で久しぶりに顔を合わせた。

「辞めるの止めたんですってね」

「あぁ、週一でもいいから出てくれと頼まれたんでね」

「桜雪さん、無遅刻・無欠勤ですものね」

「あぁ、でも社長に反抗的だから時給は下げられたよ」

「あの人バカですからね」


 結局、私はラブホのバイトを続けることになったのだ。

 理由は簡単だ、24時間いつでもできる内職のようなバイトがオプションであるから…コメント承認1件10円。

 これが案外バカにできない。

 どうせ、夜か週末に働こうかと思ってたので週一で働けば、オプションと合わせて収入は2日働いたことになる。

 ただそれだけで、引き受けたのだ。


「桜雪さん、ホント風邪ひかなかったですね」

「うん、自分でも驚きだよ」

「熱、測っても、むしろ低いくらいですもんね」

「キミも風邪ひかないよな」

「バカって、やっぱり丈夫なんですかね」

「認めたくないが…そうなのかもね」

「桜雪さんバカだから」

「……そうだね」

 一瞬で事務所の空気が変わる。

 他のバイトがギョッとした顔で私を見ている。

 そう…20人ほどいるバイトや社員、その中で、面と向かって私にバカと言えるのは彼女くらいだ。

(バカって怖いものないんだな~)


 ニコニコ笑っている彼女。

(あぁ…まぁ、私も同じか…バカは丈夫で怖いもの知らず…死ななきゃ治らないか…)

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