第121話 母娘

 髪を切った。

 知り合いの美容師…実は、彼女の母親と私は以前、不倫の関係であった。

 もちろん彼女は知らない…と思う。


 彼女は結婚して独立した、自宅の一部を改築して、こじんまりとした美容室を開業したのだ。

 もともとサッパリとした性格で、こと私には気を使わない。

「大丈夫ですよ、デブでも似合う髪型にしておきました」

 遠慮も容赦もない。


 彼女の母親は小柄な美人ではあるが、少々変わっていた。

「いや~ワタシの変わった性格は母親譲りだと思うんですよ」

 間違いないと頷いた、もちろん心でだが…。


「ダンナと離婚することになりそうです…」

 髪を切る前に、いきなり爆弾をぶち込んできた。

「そうなの?」

「はい、ダンナ浮気してて…私も子供いるんですよ」

 とお腹をさする。

「はい?」

「私も浮気してて…」

「おう?」

「W不倫ってヤツですね」

「お腹の子はどっちの?」

「やだ~もちろん浮気相手のですよ」

「もちろんなんだ…」


 彼女も母親譲りで小柄な美人、派手な顔立ちだしモテるであろう。

 母親同様に恋多き女性ということなのだろう。

「お互いの両親も知ってるし、ダンナは訴訟起こす気なんですよ」

「そうなの…自分も浮気してるのに?」

「そうなんです、まぁ、離婚訴訟に強い弁護士探しなよ、妊娠ってことで悪印象与えるだろうからね、後、ボイスレコーダーで会話を録音して、書き起こして弁護士に提出…起きたことは日付と時間を明記してメモってとこかな…有利に運ぶ証拠は多いに越したことないからね…」

「やっぱり、変な事に詳しいですね、桜雪さん昔から変わってますものね」

「そうだね…社会不適合者だからね、僕は…」


 これから大変そうだが…明るく笑う彼女、強メンタルなのだ。

 お母さんとよく似ている…外見も中身も…器用なところも…妙な行動力も…。

「今日、花火見に行くんですよ」

「ダンナと?」

「まさか、浮気相手とですよ」

 遺伝ってヤツなのだろうか?


 デブでも似合う髪型…髪を少しアップにすると…

「う~ん…顔がパイナポーみたいだ…」


 2018年夏…今年は暑い。


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