フェイズ11 対決

 あたしの未来予想図はめちゃくちゃにされてしまった。

 DBディービーと名乗るヤツのせいで。

 

 中2の夏、未遂に終わった黒歴史。

 それを反省材料に、あたし自身は裏方、黒子となって同人誌を主宰しようと思ったのが中3の春。

 いずれ芽が出そうなsighを見つけたから。

 以来地道に仲間集めに動いてきたのに。


 公募に落ちたりして落ち込んでいれば慰めてやり、活動が停滞すれば時に励まし、時には捨てアカから煽ってその子相手の本アカから応援してやったり、今は人気がなくてももしかしたら? という子たちを集めてプロデュースする準備をしてきたのに。

 いくつものアカウントを使い分け、それぞれに横の連絡を取らせないようにして。

 いつか人気が出たら、あたしのことを唯一の恩人と思わせるために。


 まるでそんなあたしをあざ笑うかのように、あのDBというヤツは軽々とあたしがやろうとしていたことを飛び越えていった。

 どうやって勧誘したのか、電子媒体とはいえ、そこそこ名前の知れた人たちを誘ってオンラインマガジンの同人誌のようなものを作ってしまった。

 あたしが人を育てようと雌伏している間に、お手軽に既に独り立ちしている人たちを集めて「DBが主宰する同人誌深呼吸して」を作ってしまった。

 そしてあろうことか、sighサイをその同人誌深呼吸してに誘ったのだ。

 いちおう、sighからは「DBの同人誌に参加したいと思う」とひと言はあったけれど、彼を拘束できるような何かつながりがあるわけでもなく、あたしはそれに同意するしかなかった。

 sighはそこで開花した。

 結果的に、DBの“深呼吸して”はsighを盛り上げるための場のようになってしまった。いや、途中からは逆にsighに煽られるようにして元々のメンバーたちも、せいぜい二流の真ん中程度だった立ち位置から一流の尻尾が見えるくらいに人気を上げてきた。

 どこの誰が言い始めたかは知らないけれど、一部のウェブ創作界隈でDBは「目利き」とか「名プロデューサー」とか呼ばれるようになった。

 これでは、あたしが「女子高生プロデューサー」として芽が出かけている才能を発掘するように同人誌を立ち上げても、まるで女子高生であることだけを売りにDBの真似をしたようにしか見えなくなってしまう。


 そんな腹ただしさを抱えているうちに、あたしは高3になってしまった。

 受験勉強も疎かにはできず、あまりあの子たちを構いつけられない時期にsighは「メイド書店」のPOP職人になり、プロのイラストレーターとして活動するようになった。


 あたしが最初に見つけた原石はホンモノだったのに。

 育てる前に横取りされてしまった。

 他の原石たちはいまだ芽吹くことなくあたしは大学生になり、もう原石たちの成長を待つなど悠長なことはしていられなくなった。

 同人活動をしてる大学生など掃いて捨てるほどいる。

 声をかけていた子たちの成長を待っているうちに、先にあたし自身を売り出しておかなければならない歳になってしまったのだ。

 光るものを持っている子たちを売り出すことであたしが有名になるはずが、有名になったあたしが無名の光るものを持っている子たちを紹介するのでないとにっちもさっちもいかなくなってしまっていた。

 まずは自作を発表する場を求めて学内のサークルに参加する必要があった。

 そこで名前を知られるようになったら、それをレバレッジとして個人誌を出し、同人を主宰する。


 そんな時、sighが雷撃大賞を受賞した。

 チャンス! と思った。

 昔からの縁だし、と申し出てみれば、あっさりとsighはあたしのためのSNS用アイコンを描いてくれた。

「sighの知り合い」というのはあたし自身を売り出すための強い一手になるはずだった。


 なのに……またしてもDBの邪魔が入った。

 いつの間にかsighのプロデューサーとして活動していたDBは現役女子高生だった。

 しかも雷撃大賞関係者からの情報によると、富士見学園なんてお嬢様学校に通っているという。

 sighとDBのコンビは、あたしがやろうとしていたことそのものだった……。


 八つ当たりだとは頭では判っていても、どこまであたしの邪魔をする気か! と腹がたった。

 ――だが、今度は八つ当たりなどではなかった。

 DBは明確にあたしに警告をしてきた――今後一切sighに関わるな――と。

 DB本人だけではなく、「メイド書店」の人脈や金の力まで使って脅しをかけてきた。

「そこまでするのか」と呆然とした。

 それから今度は純粋な怒りが湧いてきた。


 こっちにはこっちの人脈がある。

 あたしの子飼いにちょうど富士見学園の生徒がいた。

 聞くと、文化祭の演劇部の創作劇がsighの小説を元にした台本だという。

 部員なのか友人がいるのか知らないが、DBの関係者がいるのは間違いないだろう。

 その動画を入手して、ネットにばらまいた。

「これ、盗作じゃね?」とのコメントを付けて。


 SNSのIDはフリーメールのアドレスから作って、まだ使っていないものがいくつもある。

 もしもDBがあたしのことを疑っても、バレることはないはずだった……。



 ――なのに……。

 今、あたしは裁判所に訴えられ、親に借金まで背負わせて。

 示談にはなったものの、示談の条件として一切のSNS等での活動と創作物の発表を自粛すると約束させられた。

 弁護士は落とし所として、ブログでの自身による創作の公開のみは可という条件を勝ち取ったものの、それはあたしが欲しかったものじゃない。

 自分の作品を発表する場が欲しかったわけじゃない、あたしが見込んだ子たちの発表の場を作りたかったのに、SNSや投稿サイトでの活動を封じられてはそれももうできない。


 向こうが見つけられなかったTwitterのアドレス、そこに怒りの気持ちをぶちまける。

 親には迷惑をかけた。

 大学も休学という形にはなっているけれど、自主的に退学するしかないだろう。

 この先借金を背負って、どうやって生活していけばいいというのだ。

 みんなあのDBのせい。

 sighを横取りした、DBのせい……。 

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