第8話

 一方、新太郎は就職活動が上手くいなかった。三回も留年しているのが原因なのは明白だった。怠け者の王様のような経歴の持ち主を積極的に雇いたいなんて企業は滅多にない。あったとしたら相当人材に困っている、にっちもさっちもいかないような会社だろう。

 新太郎の焦りは、いつも一緒にいる怜奈にも伝わった。履歴書をニホンだけでなく、他国にも送り、さらにそれでも安心できないのか彼は遥か遠くの火星の企業にまで手を伸ばした。

「火星に住むの?」

「わからない」

 怜奈が訊くと、新太郎はこう答えた。切羽詰っているのが良くわかった。だがそれでも新太郎は怜奈の特別な存在だった。

 彼女のお腹の新しい命に気づいたのもこの頃だった。二人が出会った最初の二十世紀史の講義から一年が経って、二人は大学四年生になっていた。

 歳を重ねてはいたが、それに何かを感じるような年齢ではなかった。つまりまだ二人は若かく、妊娠もそんな若者にありがちな一つの出来事ではあった。

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