第4話

 目を醒まし、モノレールからホームに下りる。改札を抜けると、母である佐奈の姿があった。苗字も住処も違うが、家族の絆は今でも健在だった。

「おはよう」

 先に声を掛けるのは決まって佐奈で、それは五歳のときに彼女が家を出て行ってからこの十七年間ずっとそうだった。

「おはよう」

「最近どう?」

「まあまあ、かな」

「いつも、そうね。さあ、乗って。ご飯は食べてきた?」

「ううん」

 午前九時だった。朝ご飯は食べずに、シャワーを浴び、身だしなみを整えて出てきた。

 いつもの事だった。それなのに佐奈は毎回、朝ご飯をことを尋ねる。だが尋ねられる怜奈も悪い気はしない。その質問をされると、母親と一緒にいるんだ、という気になる。いわば二人にとってトリガーのような質問だった。

 彼女は佐奈の運転する車の助手席に乗り込もうとする。そのとき、ふと視界に先ほど対面に座っていた老婆の姿が目に入る。丁度、改札から出てくるところだった。特に待ち人もなく、彼女はその遅い足並みでどこかへ向って歩いていく。

「なにしてんの、早く乗りなよ」

「あ、うん。ごめん」

「どうした、風邪でも引いた?」

「違うよ」

 その日は晴れて、雲一つない日だった。車に乗り込むと、そんな空はベージュの天井に取って代わる。

「いつものところでいい?」

「うん」

 エンジンは掛かったままだった。そのまま二人を乗せた青い車は、佐奈の自宅マンションへと向う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る