第3話


 新太郎と再会した翌日の土曜日。彼女は、一平と離婚した母親、小西佐奈に会いに行く。一ヶ月前からそういう予定だった。五歳ときに両親が離婚して以来、月初めの第一土曜日は、かつて母親だった佐奈と過ごすことになっていた。幾度が学校行事や体調不良などが重なって、会うことが出来なかったこともあったが、離婚してからのほとんどの第一土曜日は二人にとって特別な日だった。

 佐奈が住む街は、怜奈が住む場所からモノレールで三駅ほど離れた場所にある海上都市だった。

 怜奈を乗せたモノレールは、ゆっくりと陸上を抜けて、その海上都市を目指して、海の上へ出ていく。水平線の手前まで続く細い線路は、無国籍な雰囲気を漂わせた都市へと続いている。海上都市までもう十五分と掛からないだろう。土曜の朝。車内に人は少なかった。怜奈な車内の隅で展開されている新しい航空会社の宣伝映像を眺める。窓の外に展開される青い海の風景はもう見飽きていた。

 映像では、モデル体型のキャビンアテンダントが、火星までの航空券の価格を笑顔で読み上げている。次に続く映像は、驚きの低価格からは想像出来ないサービスの映像だった。

 まだ火星には行ったことがなかった。きっとこれからもそうだろう、そんな予感が彼女にはあった。

 椅子に座り、対面に座っている老婆に目を移す。眠っていた。小さな巾着袋を持って、この老婆は一体何をしにこんなに朝早くから海上都市に行くのだろうか、と怜奈は想像を巡らせる。友人に会うため? 孫に会うため? 病院に行くため?

 結局、答えなどはわかるはずがない。

 彼女は耳にイヤホンを嵌めて、音楽を掛ける。映像の音声と入れ替わるように、音楽が流れてくる。目的地まで本当に少しの時間しかなかったが、そこは終点でもあるので、怜奈は眠ることにする。そう、まだ土曜日の朝なのだ。

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