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 へそくりを手にデパートのランドセル売り場に赴くと、沈んだ顔の大宮さんと出くわした。


「どうしたんですか。梅田さん。イナゴに作物を食い荒らされた農家のような顔をして」


「そっちこそ。減量に失敗したボクサーみたいな顔をして」


 わたしたちはデパート内のカフェに場所を移した。しばらく沈黙が降りた後、大宮さんが言った。


「実は、ランドセルなんですけど」


「奇遇ね。わたしもそれで悩んでるの」


 わたしたちは腹を割って話した。


「え、じゃあ大宮さんのところも実家からランドセルが?」


「そうなんですよ。キャラメル色なんですけど困っちゃって……」


「保守派」と「進歩派」。立場こそ逆ながら、わたしと大宮さんはまったく同じ悩みを抱えていることが分かった。すなわち、ママさん友達と家族との板ばさみだ。


「それにしても梅田さんも水臭いですね。最初から言ってくれればよかったのに」


「そっちこそ」わたしは言った。「まったく、あの人たちってどうしてああも頑ななのかしらね」


「きっと団体としてのアイデンティティーがないとばらばらになるっていう不安があるんですよ」


「どういうこと?」


「ほら、ああいう団体ってうわべだけの付き合いじゃないですか。お互いの顔色を伺って、相手の言うことは決して否定しない。心と心のつながりじゃなくて、お互いに掟を守ることで結束が保たれてるんですよ。だから、団結を強める紐帯としてそういうイデオロギーみたいなものがほしいんじゃないですか」


「なるほど。鋭いこと言うわね」


「それより、梅田さん。これは提案なんですが」


「何?」


「お互いの問題を一気に解決する方法を思いつきました」


「そんな都合のいい方法があるの?」


「あるんです」と大宮さんは自信たっぷりに言った。「わたしたちでランドセルを交換するんです」


「あなた天才?」


 わたしは言った。目の前がぱっと明るくなったようだった。大宮さんの提案が分厚い雲を割って地上に降り注ぐ光のように思えた。


 わたしたちはランドセルの代わりに婦人服のフロアでお金を使った。後悔はしていない。大宮さんが買ったパンプスは履いて歩くと後ろ姿がとても美しかったし、わたしのコートも手触りがよく最高にエレガントだった。

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