Epizodo 21

  ▽


 高い天井。遠い壁。荘厳を長方形に切り出した大広間は〝玉座の間〟と名付けられた。


 初めて案内された時、エスペロは自身の目を疑った。その必要性を理解できなかった。


 しかし、


「皆、よく集まってくれた」


 多種多様な魔族が一堂に会する場として、巨大な空間は一つくらい必要らしい。


 スライム。ゴブリン。オーク。


 エルフ。シルフ。サラマンダー。


 鬼。鵺。妖精。


 デーモン。ドラゴン。ラミア。


 それら全て、かつて人間が付けた種の名称。魔族とは、本来他種族と生活を供さない生物。


 それが今、エスペロの前で――皆一様に跪き、頭を垂れる。平和と平穏と胸に抱いて。


 少なくとも、玉座に坐るエスペロは皆と同じ想いだと思っている。


「顔を上げてくれ」


 背凭れの高い椅子に坐ったエスペロは、角や尻尾が元通り。固い鱗に覆われた右手を上げ、指示を出す。


 その脇に、礼装姿で着飾ったネィジョが立つ。誰の目にも分かるくらい真っ青な顔色で、裾の花弁まで躰の振動が伝わっていた。


 整然と並んだ魔族の色彩豊かな瞳が、一斉にエスペロを射抜いた――ような気がした。


 ……緊張する。


 ともすれば、勇者と対峙した時の方が気は楽だった。


 棘の生えた背筋を冷汗が流れる。


「まずは、礼を言わせてくれ。私の復活を信じ、この場に残ってくれてありがとう」


「魔王様!」


「魔王さま万歳っ!」


「信じておりました!」


 高いも低いも声を震わせ、エスペロの姿に一筋の涙を流した。


 エスペロの背筋を、益々冷汗が流れる。


「……私は勇者に敗れ、一万年以上の月日を眠っていた。しかし、私の想いは――今も昔も変わっていない」


 一拍置いて。


「魔族に平和を。大陸に平穏を。その為に、皆の力を貸して欲しい」


 更に、一拍置いて。


「頼む」


『うおおおおおおぉおおぉおおぉぉ!』


 玉座の間を穿ち割るほどの歓声。ネィジョは、咄嗟に両耳を塞いでいた。


「指示は追って出す。――解散」

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