第9話
「あ」
屋上にあたし以外の人間がいるなんて初めてだった。「ごめん」
向こうがあたしに謝ってくる。どうして謝るのだがわからない。話し掛けられたあたしは身体の芯が、かーっと熱くなるのを感じた。実際、鏡で自分を見たら顔は真っ赤になっていただろう。
そこにいたのは男だった。初めて見る顔。このマンモス校で、初めて見る男子生徒なんて幾らでもいる全然珍しくない。
「大丈夫?」
「あばばばば」
言葉を浴びせられるという程じゃない。だったの一言、二言だがあたしはもうノックアウト寸前だった。
「気分でも悪いの?」
「だだだだだだだだだ」
あたしはもう動くことすら出来ない。震える声で「だいびょうぶでず」と言うのが精一杯だった。もうだめだ。普通に会話が出来ていない。頭のおかしな奴だと思われる。この場から逃げたい。逃げたいけど、身体が全く動かない。
悪循環。
「いやけど全然、大丈夫なように見えないよ」
男は近づいてくる。
あたしの視線はその距離が縮まる程に霞んでいく。
「ばいびょうぶでぐ」
「え? なに?」
ああ。身体に力が入らない。フルスピードで後ろに走って逃げたいのに。どんどんと視界が霞んで、全ての輪郭が曖昧になっていく。
「ねえ、どうかした?」
男子生徒の手が伸びてくる。
「あわわわわわ」
男子生徒の手があたしに触れるその瞬間、あたしは気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます