第2話

「二人のデータです」

 ポポコさんがプリントアウトした資料をあたしに渡す。あたしとポポコさんは別室に移動して、花嫁選考会議に入った。会議と言っても、結局決めるのはあたしで、相談する相手と言えばポポコさんくらいなものだろう。本来ならここに当事者のニョルニョルがいても良いのだけど、彼の頭はお花畑だから、寝室に追いやった。

 資料には身長、体重、バスト、ウェスト、ヒップ、趣味、家族構成、自分でつける自信のキャッチコピー、などなど様々なことが書いてある。

「お飲み物は何がよろしいですか?」

「あ、牛乳お願いします」

「牛乳お好きですよね」

 あたしがそう言うことをわかっていたかのように部屋に置いてある小さな冷蔵庫を開いて、彼女は牛乳を用意してくれる。

「ありがとうございます」

「いえいえ」

 それからあたしは資料にじっくりと目を通す。

 二人の女性は、それぞれ双子の姉妹だった。火星では名家と呼ばれる、家庭の出身で要は貴族である。

 名前は、姉がマッサで、妹がロッサと言う。一卵性なのだろう。どちらの顔も同じようなものだった。

「そっくりですね」

「似ているのは地球と火星みたいなものでしょう、双子ですから。見分け方は目がブラウンなのがマッサさんで、ブルーなのがロッサさんですね」

「なるほど」

 資料を読み進めていく。

 どちらもバストはDカップと書いてあった。あたしよりも大分、大きい。とりあえず牛乳を飲もう。

「さてウェストは――」

 どちらもあたしよりも細い。宇宙の法則を無視しているとしか思えなかった。牛乳が進んだ。

「ヒップは――」

 あたしは牛乳を飲む。「すいません。牛乳、おかわり頂けますか?」

「大丈夫ですか? お腹壊しますよ」

「大丈夫です。あたしはこの可憐な二人と違って頑丈に出来てますから」

 テーブルの上の二枚の資料を叩いた。

 姉のキャッチコピーは、次世代の冷たい美少女だった。一方、妹のキャッチコピーは、火星に咲いた天真爛漫の爆裂花だった。

 見た目は似ている二人でも、資料から読み解く限り、性格や思考は正反対のようだった。姉は、現在、火星の王立研究所で種の保存についての研究をしている。一方、妹は冒険家として古代の地球と火星を行き来する生活をしているらしい。

 あたしもこっちに来たとき、一度だけ人類が繁栄するまえの古代の地球を見せてもらったが、虫がやたらと大きかったことを憶えている。それ以外は、緑ばっかり、という印象くらいしか残っていない。あそこから人類が進化して生まれたとか到底信じられない状態だった。あたしの住む現在の地球になら、文明が発達したこの古代の火星のほうがよっぽど似ている。

「資料だけで判断するのは難しいですよね?」

 あたしが悩んでいるとポポコさんが助け舟を出してくれる。こういう気遣いがあるからあのペッポコ王様の従者も務まるのだろう。「次回、こちらにいらして頂くときに、面接の機会を設けようと思うのですか如何でしょうか?」

「面接、グッドアイデアですね」

 あたしの反応を見て、ポポコさんは笑顔を作る。その笑顔を見せてくれるときだけ何だか年の近い友達のような親近感が沸く。

「あ、そろそろ時間だ」

 あたしは腕時計を確認する。こっちにタイムワープしてきて三時間が過ぎていた。地球は今頃、夕方だろう。

「もうそんな時間ですか」

 ポポコさんは名残惜しそうな表情を作ってくれる。「もっと滞在して頂けたら心強いんですけどね」

「すいません」

「いえいえ」

 あたしは筆記用具を鞄にしまうと、椅子から立ち上がる。「ではすいません、お先に失礼します。お疲れ様でした」

「お疲れ様です。次回もお待ちしております」

 あたしはポポコさんに会釈をして部屋を出る。

「あ!」

 部屋を出て、扉をしめてからすぐにさっきポポコさんから頂いた資料をテーブルの上に忘れていることに気づいた。

 あたしはくるりと身体を反対に向けて、扉を開く。

「すいません――。資料忘れちゃって」

 部屋に入ると、資料を凝視しながら、自分の胸に大きさを測るようにして手を当てているポポコさんがいた。

「あ、これはべ、別に。その。胸の大きさを気にしてとかじゃなくて、その。男ってどうして胸の大きな人ばっかり好きになるんだろう、とかそういうことを考えていたわけじゃ決してなくて、えっと――。その――。つまり……」

 焦るポポコさんは可愛いかった。

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