第61話おばあちゃんとヤクルト編⑨
祖母は近所の葬儀社に運ばれ、僕ら家族はお通夜の準備をする事になった。
父親が祖母が生前お世話になった方に連絡するようにと言った。
はて。僕が知ってる祖母の知人といえば。
あっ!あのパチンコ店員!
忠臣蔵の大石内蔵助の扮装で祖母と一緒に写真を撮っていた彼。
彼の家にまで遊びに行くと言っていたな。
実は彼は僕の中学の後輩であった。
とりあえず電話をかけてみよう。
「もしもし。原田です。実は祖母が亡くなりまして・・・」
「えっ!えーっ!ええーーっっ!!」
彼は電話の向こうで驚愕した。
「なんで?いつ?そんなに悪かったんですか?どうりで最近見ないと思ってたんです。」
「はい。それで今日お通夜があるんですが、もしお時間ありましたら・・・」
「行きます!行きます!」
彼はすぐに駆けつけてくれた。
なんと彼の母親も一緒に来てくれた。
そして彼は眠る祖母の姿を見るなり、
「おばあちゃん!なんでよ。どうして・・・」
まるで身内のように泣き崩れた。
彼の母親に聞くと、彼の家族は早くにおばあちゃんを亡くしてしまい、本当に自分たちの祖母のように親しくしていたらしい。
祖母も生前、何度も彼の家にお邪魔していたようだ。
そして祖母の手編みのセーター。
僕が着なかったセーターを、全部彼にあげていたのだ。
「おばあちゃん。おばあちゃん・・・」
彼があんまりにも泣くので、僕は心苦しいかった。
彼ら家族は祖母がいない寂しいさを、生前の祖母に癒してもらい。
僕の祖母は、孫が相手にしてくれなくなった寂しいさをまた、彼に癒してもらっていたのだ。
そうやって、彼らと祖母は繋がっていたのだ。
実の孫の僕は、祖母の編んでくれたセーターも着ず。
祖母のカバンから500円玉を盗み、
交番でタクシーの運転手の味方をして、祖母の手を振り払い、
「ずっと家にいとけ!」
と暴言を吐いていたのだ。
彼ら親子がふと封筒のような物を取り出した?
「それは?」
「お茶の葉です。」
「お茶?」
「おばあちゃん、お茶が大好きやったんです。うちに来たときよくお茶を飲んでいましたから。それでお供えしようと持ってきました。」
「・・・・・」
そうだ。祖母はお茶が好きだったんだ。
だったら、それだったら、
パチンコの景品でどうしてヤクルトばかりもらっていたんだ?
お茶が好きなら、お茶をもらえばよかったじゃないか?
どうして?
あんなに、ヤクルトばかりもらってたんだよ!
全ては僕のため。
僕に飲ませるために。ヤクルトをもらっていたのだ。
自分はお茶が大好きなのに・・・
亡くなってから気付く事が多すぎる。
そして辛すぎるよ。
おばあちゃん・・・
僕は彼と二人で眠る祖母に手を合わせた。
優しくない自分勝手な実の孫と、
他人だが優しい祖母想いの彼と、
二人で祖母に手を合わせたのだ・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます