第33話砂漠の水編⑦

やはりその女の子をほっておけない僕がいた。

女の子がどんなにホールの仕事を覚えても、班長はまだ付きっきりでいる、毎日。

そんな最中も僕に、助けを求めるような目をしてくる。

職場では何もしてあげれないけれど。


仕事が終わったら、一緒に喫茶店に行って愚痴を聞いてあげた。

田舎の家族の話やら、パチンコ店に住み込みで働くしかない、複雑な事情も聞いた。

そんなやすやすと辞めるわけにはいかないのだ。

寮付きの仕事なんて、パチンコ屋以外にそうはない。

そんな風に女の子といる間にも、その子の携帯には、二人の班長からしょっちゅう電話がかかってきた。


「今、なにしてんの?」

「遊びに行こうや!」

「今日、寮の部屋に行っていい?」

僕がそばにいるとも知らず、愚かな二人の班長の誘いの電話である。

女の子は何とかあしらって、やっと二人からの電話を切る。


「原田さん、私、一人で怖いんです!」


しかし、僕もそれ以上深く関わる事はできなかった。

今の時代なら完全にセクハラ行為だろう。しかし、当時の僕は会社に絶対服従を教えられていたし、女の子も寮を追い出されたら、その日から住む所がなくなるのだ。

きちんと訴えるとこに訴えたら、きっとどうにかなったかもしれない。

だけどそんな知恵のない僕らは、困ったなー。と言い合うだけだった。


その日家に帰って僕は自分の携帯を見る。

女の子からメールが来ていた。


「・・・・私、原田さん、好きです。」


あっちゃー。それを見て思った。

僕はそんな気持ちはないのだ。

そういう対象として、その女の子を見れないのだ。

ただ、困ってるからほっておけないのだ。

そして、こんな数日で僕に惚れるなんて、やっぱりこの子、心が寂しくて隙がある。だから狙われるのだ。

当時は僕はまだ、現在の妻と出会っておらず、付き合ってる女の子もいなかったが。

その女の子のメールの告白に、答える事はなかった。


あの二人の班長の顔がちらついた。

僕は、あんな二人とは違う。


その次の日の朝礼。

班長が従業員全員の前に立つ。

「今日も笑顔で元気よく!お客様の接客の事だけを考えて業務に当たるように!」


本当に、どの口が言うのだ。

どうせまた、ホールを抜け出して女の子に電話しに行くくせに。


「お客様優先!お客様第一主義!それを忘れるな!」


いやいや。

あんたは、自分第一主義やから。間違いない・・・・

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